アメリカ大統領選挙(前編)

今年最大級の世界規模のニュース、結果まで含めれば“最大のニュース”
と言えるであろう、アメリカ大統領選挙の結果が出た。

今年(2016年)にアメリカ大統領選挙が行われることは何年も前から予測できていたし、
昨年まで、つまり誰がそれぞれの党の代表候補となるかが分からなかった時点までは
「次はおそらく(前回オバマ大統領に敗れた)共和党側の候補が勝つだろう」
と漠然と考えていた。
しかし、両党の“代表者”候補が出そろった時点で「むむ‥‥?」となり、
共和党側の候補がトランプ氏に決まった時点で
「どうして勝てる選挙をわざわざ捨てるのか?」となった。この10月の下旬までは。
その後もトランプ氏は危険な発言、政治的に正しくない発言を繰り返し、
マスコミからはあからさまな不支持やバッシングを浴び続けた。
最後のテレビ討論会では陰謀論を主張して
「自分が負けた場合は選挙の結果を受け入れない」と発言したとされ、
日米のマスコミはみな「ヒラリー候補の完勝」だと言っていた。

‥‥それが、「この10月の下旬まで」の話である。
そこで、再び「むむ‥‥?」となる小さなニュースがあった。↓である。
http://www.asahi.com/international/reuters/CRWKCN12L2UC.html
>  [ニューヨーク 21日 ロイター] - ロイター/イプソスが21日発表した
> 米大統領選に向けた支持率調査によると、(中略)
> 調査は14─20日、全米50州で有権者1640人を対象にオンラインで実施。
> クリントン氏の支持率は44%、トランプ氏は40%となった。
> 7─13日に実施された調査ではクリントン氏が8ポイントの差をつけていたが、
> そのリードは半分に縮まった。

前述の「最後のテレビ討論会」が10/19だったので、
この支持率調査の結果はその前後の状況を表すものである。
確かに“支持率”を見れば「ヒラリー候補の勝利」で間違っていない。が、
これを読んで「最後のテレビ討論会はヒラリー候補の勝利」と解釈できるだろうか。
自他ともに認める理系人間の私には文系の発想が分からないのだが、理系の見方をすれば
これは間違いなく「最後のテレビ討論会はヒラリー候補の敗北」と解釈される。
ちなみにトランプ氏はこれ以降過激な発言を控えるようになったようなので、
この頃に彼の過激な発言に対する有権者の反応がもっとも強く出ていると考えられる。
また、マスコミが「ヒラリー候補の最大の敗因」だと言う
FBIのメール私用疑惑の調査はこれより1週間以上後(10/28)であり、
実際のところ“メール私用疑惑”に関してはすでに昔から言われていたことである。
その影響はマスコミが言うほど大きくはないし、
またそれは時期的に「ヒラリー候補のテレビ討論会での敗因」とはなり得ない。

このニュースを見て私はトランプ候補の勝利を確信したわけではないが、
今後トランプ候補の上昇機運で状況が推移していくことを確信した。
しかしこの時点で支持率の点ではヒラリー候補が勝っていることも事実であり、
あとはその上昇機運が投票日までに支持率の点でも
ヒラリー候補を打ち負かすかどうかが問題となってくる。
そして11月に入ると、
支持率調査の結果が出るたびに円高、日米両国の株安が伝えられた。
それが投票日の前の週になるが、
これらのニュースをもって私はトランプ候補の勝利をほぼ確信した。
彼らが文系出身であれ文系人間であれ、為替や株価を動かす人々は
変動する数値を“理系的な見方”で見ることに慣れている。
この時点で円を買うということは
彼らがトランプ候補の勝利を見越しているということであり、
また自らの利害に直接かかわってくる分彼らの予測はマスコミなどより正しい
ということである。
ちなみに、この頃からすでに「世論調査でうそを答える隠れトランプ支持者」の存在が
指摘されており、表面的な支持率の数値はあまりあてにできないとも言われていた。

そして今週11/9の午後(日本時間)、トランプ候補の勝利が確定した。
総得票数ではヒラリー候補が上回ったとも言われているが、
選挙人の獲得数ではトランプ候補が快勝と言ってよいくらいの結果だった。
どちらの結果がより民主的かという議論はともかく、
アメリカ大統領選挙のルールに則ればトランプ候補の勝利、これが結果である。
ちなみに同時に行われた上下院議員選挙では両院とも共和党側が勝利し、
トランプ候補の勝利(あるいはヒラリー候補の敗北)が
政治的な陰謀などなくても民意としてあり得ることを示している。

正直、トランプ大統領がよいのかどうかは分からない。
日本にとって、アメリカにとって、また世界にとって。
しかし、この結果を聞いて私は嬉しいと感じた。
トランプ候補の勝利に対してではなく、ヒラリー候補の敗北に対してでもなく、
日米両国のマスコミの敗北に対して、である。
アメリカのマスコミは、今回の結果を自分たちの敗北だと認めている。
日本のマスコミは立場上“高みの見物”を装えると思っているかもしれないが、
アメリカのマスコミに同調していたという事実により立場は同じである。
というか、誰がどう見てもこれは両国のマスコミの負けである。
なぜならば、彼らが“真実”よりも“自らの願望”を優先的に報道した
という事実がはっきりと歴史に刻まれてしまったからである。

このような“願望優先の報道”は、無意識になされたものだったのだろうか?
本稿の前半で私が「トランプ候補の勝利を事前に予測できた」と主張したのは、
私の予測能力の高さを自慢したかったわけではない。
適切な情報さえあれば、比較的簡単に予測し得たことだと言いたいのである。
政治分野の報道記者が、支持率の推移を知らなかったということはあるまい。
選挙の1週間前に円が高騰して両国の株価が大きく値を下げたことを知らなかった
ということもあるまい。
彼らは、トランプ候補の勝利を予測し得たはずである。決して番狂わせなどではない。
にもかかわらず最後までひたすらにヒラリー候補の優位を伝え、
そして大勢が決した後には「番狂わせ」だと嘆き、
一体どの面を下げて「ジャーナリズム」などと口にできるのだろう。
日本のマスコミが酷いことはよく知っている。
だが、アメリカのマスコミまでがこのような状態だとは今回初めて知った。
だとすれば、このようなマスコミの状況が今回トランプ候補に勝利をもたらした
という可能性は考えられないだろうか? (続く)