2020年を振り返る(後編)

 2020年総括ふたつめのテーマは、アメリカ大統領選挙について。前回トランプ大統領が勝利した際に書いた記事は↓にある。
https://windmillion.hatenablog.com/entry/18842138
アメリカ大統領選挙(前編) ;2016-11-12)
https://windmillion.hatenablog.com/entry/18843915
アメリカ大統領選挙(後編) ;2016-11-13)

ここでは、
> 正直、トランプ大統領がよいのかどうかは分からない。
> 日本にとって、アメリカにとって、また世界にとって。
と書いていた。そして今の私は「正直、トランプ大統領がよかったのかどうか分からない」と書く。何もしなかった、ということではなく、功と罪がともにあるということだ。功の方は「怖い相手にひるまずその非を明らかにしたこと」である。怖い相手の典型例が中国だ。今日の世界で中国に対して経済戦争を仕掛けてまで中国が行ってきた経済的なずる・軍事力に基づく覇権主義を断罪することが、トランプ大統領以外の誰にできようか。いや、今ならバイデン次期大統領にもできるかもしれない。しかしそれはトランプ大統領が先鞭をつけたからである。その他、石油の生産制限が必要な時期に手ごわい相手であるロシアのプーチン大統領と交渉を行って共同で産油制限を実現させたという。日本以外の世界では、リーダーが上品さを装わない国が多くある。そのような国を世界のルールに組み込むためには理想を掲げるだけではダメなのだ。

 一方のトランプ大統領の罪の側面は、国際協調主義に背を向けてアメリカ人に孤立主義の味を思い出させたことである。そもそもこれはトランプ大統領のスローガンである「アメリカ・ファースト」と表裏一体にして不可分の側面だ。もっといろいろな影響が出てきても不思議ではないところだが、実際には日本の駐留米軍の負担増額や駐韓米軍の撤退などは実現せず、さらには大統領が明言したWHO脱退も実現されていない。この時期で大統領の交代が生じたのは、アメリカの孤立主義を深めないという点で希望の持てる事態であり、またアメリカの影響力と自由主義のルールを排除して覇権を握りたいと考える勢力にとって好ましくない事態となる。

 前回の大統領選挙に際して私は、その選挙の結果はトランプ候補の勝利というよりもマスコミの敗北であり、行き過ぎたポリコレに対してアメリカ国民がノーを突きつけたものだと書いた。そして、
> ヨーロッパやアメリカが原理主義を否定し、行き過ぎた政治的正しさを拒否し、
> 無制限の移民の流入やマイノリティに特権を与えることが社会的に正しいかどうか
> を真の言論の自由の下に議論し、より望ましい自由と民主主義を実践する。
> そのあかつきには、自信に満ちた態度のアメリカ大統領が自らの価値を振りかざし、
> その旗を日本の全体主義に突き刺してこの閉塞感に風穴を開けてほしい。
という期待を表明した。然してその結果は、4年前とあまり変わっていない。ヨーロッパでは相変わらず環境問題をはじめとするポリコレ旋風が吹き荒れており、アメリカではBLM運動が記憶に新しい。そして日本では、全体主義同調圧力が新型コロナウィルスの流行によりさらに強まってしまっている。これらの社会的風潮の根底には、各種の原理主義と同じ不寛容の精神が息づいている。

 私は今回の大統領選挙でもトランプ大統領が圧勝するだろうと予想していた。理由は対抗馬のバイデン候補に魅力が乏しいこと、そして年の前半に拡大・過激化したBLM運動がトランプ大統領にとって追い風になると考えたためである。しかし結果はトランプ大統領への追い風が及ばず、反トランプ票がトランプ支持者の票を上回ったというものだった。もちろん先に書いたように新型コロナウィルスの流行拡大がアメリカでも現職大統領にとって強い逆風となった要素はあるとしても、これほどBLM運動が影響力を持たなかったというのは心底意外だった。思えば、大統領選におけるトランプ支持者もまた(不法移民などへの)不寛容の精神をあらわにしており、反ポリコレの想いを持つ浮動票の求心力となれなかったのかもしれない。今後も先進諸国ではポリコレという名の不寛容主義が幅を利かせ、世論は画一化ないし二極化の状態をとることになるだろう。

 バイデン次期大統領に関しては、今回の選挙における彼の役割は“反トランプ候補”なのであり、トランプ大統領に勝利した時点で彼の役割は完了してしまった、彼の支持者の期待もしぼんでしまった、というところにつまらなさがあると思う。高齢であることから、任期中に次期副大統領へバトンを渡すことが彼の次の役割だという主張まである。逆に期待されていない分大きなことをなす余地もあり、4年後には「つまらない」という私の予想を裏切る総括を書かせてほしいと思う。

 いずれにせよ2021年は新型コロナウィルスに対する人類の反撃の年となるはずで、特にその急先鋒は現在最も大きく負けているアメリカと、オリンピックを控えている日本となるだろう。疫病とともに、社会を閉塞させている同調圧力と不寛容の精神が世界から退散してくれることを願い、2020年を納める。