モロッコ旅行記(補筆) ;アズライトの首飾り

「スークの商人」で書いた250USドルの首飾り。
店主は銀の小片に刻まれた幸運の渦巻き模様を見せたくて持ち出したようだが、
私は最初から銀の小片の周囲にある青い管玉のほうに興味を持っていかれていた。
砂漠の民は、深い青色;藍色を愛するという。
砂漠ツアーの途中、風除けのターバンとして使うスカーフを買うことになったが、
そのとき店主は真っ先に藍色のものを薦めてきた。地元で人気があるのだという。
この風潮は最近広まったものではなく、中東やアラブでは歴史的にこの色が好まれてきた。
はるかな昔、中東の中心都市バビロニアにあったというイシュタル門は、
この色の化粧レンガによって築かれていたという。
そして一般市民(の金持ち)は、青い石ラピス・ラズリを珍重してきた。
日本人がヒスイを愛し、中国人が白玉を愛し、ヨーロッパ人が金を愛するように。
それゆえ、私はこの首飾りを見たとき、「や、これがアラブのラピス・ラズリ」と思い、
そちらに興味を奪われてしまったのである。
 
ところが、店主に聞くと「アズライト」だという。
ラピス・ラズリは英語で「ラズライト」というため聞き間違いかと思って確認したが、
やはり「アズライト」だと答えた。
普通なら石を知らない一般人の言うことなど気にもかけずに捨て置くところだが、
この場合は捨て置けない理由がある。
実際に「アズライト」という深い青色の鉱物があるのだ。日本語では「藍銅鉱」だが、
これは古代より「群青」という色の顔料として用いられてきたという。
もちろん言うまでもないことだが、
ラピス・ラズリもやはり西洋で古くから藍色を出す顔料として用いられてきている。
おっと、困った。見た目からではどちらかはっきり分からない。
アズライト=藍銅鉱をこんな風に貴石として加工するという話はあまり聞いたことが
ないが、やろうと思ってできないことではない。
おまけに、ここモロッコはきれいな藍銅鉱の産出地なのだ。
高価なラピス・ラズリの代用品として地元産の藍銅鉱を使うというのは十分にあり得る。
「その石はモロッコで採れたものですか?」「いや、アフガニスタンで採れたものだ。」
まあ、イミテーションであれば産地も偽装することはあり得るだろう。
これはもう、実際に買って調べるしかない。
 
イメージ 1
写真にあるのがその首飾りである。残念ながらその色は写せなかった。
ちなみに真ん中左側の石がラピス・ラズリ、真ん中右側が藍銅鉱。
(藍銅鉱もうまく色が写せなかったので、画像検索できれいな画を見てね。)
で、実際のところこの石は一体どちらなのか?写真からも分かるように…
…ラピス・ラズリである。ごめん、この写真からでは分かりません。
ラピス・ラズリに特有の、白いカルサイトや金色の黄鉄鉱がかすかに混入している。
うーん、それにしてもなんてまぎらわしいんだ。
実は「ラズライト」にも2種類あり、真ん中の「ラ」が「l」か「r」かの違いだという。
はっきり言って、これは聞き取りでは区別できません!
分かりやすくラピス・ラズリは「ラピス・ラズリ」って言いましょう!
そのほうが神秘的な雰囲気だし。
でも、ラピス・ラズリの「ラズリ」はアラビア語で青色を表す言葉だという。
普段アラビア語で話をするモロッコ人としては、母国語の混ざった言葉は神秘的どころか
むしろ安っぽく聞こえてしまうのかもしれない。ちょうど、香港の街中にあふれる
変な日本語の商品の数々を見て日本人がなぜか恥ずかしく感じてしまうように。
それにしても、あの宝飾店の店主はなぜ「ラズライト」というべきところを
「アズライト」と言ったのだろうか?これは未だに謎である。
どうせ言葉の通じない日本人が相手なのだから、無理に使い慣れない英語で言わなくても
使い慣れた母国語で言えばよさそうなものである。
だとすると、ラピス・ラズリはアラビア語では「アズライト」なのだろうか?
アラビア語と石に詳しい人、誰か教えて。
イメージ 2