上の子が反抗期をこじらせた

うちの上のぼうずが反抗期真っ盛りである。
なんでも父親である私に歯向かおうとし、世間体も何もあったものではない。
私も昔はワルだったが、今のあいつは何だかそれを真似しているかのようだ。
あいつがまだ小さかった頃、私はよくあいつに対して手をあげたりもした。
今だったら「虐待だ」などと大騒ぎになりそうなところだが、
当時はよそ様もよくやっていた。そういう時代だったのだ。
少し前まであいつはそのことを持ち出して私のことを非難していたが、
最近はそういうことを滅多に言わなくなった。
どうやら「親父に虐待されていた」という事実があいつのプライドを傷つけるらしく、
そんな過去はなかったことにしたいらしい。
 
うちには、下の娘もいる。
こいつもまた上のぼうずに負けず劣らず反抗期である。
いや、女の反抗期はもっとたちが悪い。
生来のかんしゃく持ちも手伝って、もはや手のつけられない有様だ。
親を困らせるためならいつまでも騒ぐ。嘘もつく。世間体も何もあったものではない。
最近ではよそ様からの見られもあまりよくないようだ。
少し前までは上手に愛嬌を振りまいていて、周囲からちやほやされていた。
育ての親の私も「うまくやるもんだ」と感心していたのに。
…そう、この子供達と私には、血の繋がりはない。
正直、こんな状態に陥って子供達にかわいさとか愛情とかをほとんど感じない。
 
私がまだワルだった頃、下の娘はまだもの心もついていなかった。
それなのに、その頃のことを持ち出してきてこいつは私に当たる。
反抗期同士でおにいちゃんと一緒になって私を困らせたいようだが、
そこはあまりうまくいっていない。
こいつの反抗のタイプは「母親に対するワガママ」。
上のぼうずの反抗は「父親殺し」であり、こいつとは主張が合わなくなってきている。
あいつは今ワルさで過去の私を上回ろうと躍起なのだから。
 
このままあいつが反抗期をこじらせることが心配だ。
今の私にはやりがいのある仕事があり、仲のよい同僚や後輩がたくさんいる。
社会の変化や私自身の高齢化など先行き不透明なところもあるが、
私にしかできない役割を与えられ、責任もある。今の私は周りから一目置かれている。
しかし私がワルだった頃、私はよそ様に迷惑をかけるところまで突っ走ってしまい、
警察官をやっているアニキにこらしめられた。
それ以来心を入れ替えたつもりだが、
一度やってしまったことはそう簡単には取り返しがつかない。
今では仲良くやっているが、実は今でもアニキに頭が上がらない。
 
今のあいつはワルいところばかりが目につくが、
本当は安い賃金でも身を粉にしてよく働いていることを私は知っている。
親のひいき目を差し引いても、他の同年代と比べてよくやっていると思う。
それに下の娘も、親の名をかたってとはいえしたたかに稼ぐ術を心得ている。
ただこいつは体面を保つための浪費癖が身についていて
見ていて危なっかしいところもなくはないが。
要するに、もう自分達だけでよそ様に恥じることのない立派な生き方をできるはずだ。
あとは親の過去をよく学び、親と同じ道の踏み外し方をして
世間から白い目で見られ続ける恥ずかしい人生を送ることだけは避けてほしい。
たとえ、勢いを持て余すことが古今東西若者の避けられない性だとはいえ。
 
言い忘れていたが、私にはもう一人、下のぼうずもいる。
こいつは現在、絶賛引きこもり中である。
おにいちゃんがよく面倒を見てくれていたが、どうも最近は愛情が薄れてきたらしい。
食事もろくに摂っていないともいうし、少し心配なところである。