コピペ論文の罪 (2014/03/15)

このところ大きなニュースが立て続けに世間を騒がせているが、
その中で最も興味をかきたてられるのが理研発「STAP細胞の論文疑惑」である。
発見の新聞発表第一報が1月30日、
そして疑惑記事が新聞などで報じられ始めたのが今週の初めあたりである。
しかしネット上でこの論文のコピペ疑惑が持ち上がったのは、
それより一週間以上早い先々週末あたりだった。
最初の疑惑発覚はいわゆる「マテメソ」コピペの発覚で、
そのきっかけは論文中の「KC1」「C02」という不自然な誤記の発見だった。
その後は1st著者の博士論文からの証拠写真使い回しが決定打となり、
ネット上での今の話題はそのD論自体のコピペ疑惑に移っている。
 
ネット上によく見られるこの事件に対する(留意する価値のある)意見としては、
○研究論文におけるコピペは絶対に許されない
○この1st著者は学生時代に論文作成に関するろくな教育を受けていない
という2点が多い。
一つ目の意見については、反論しにくいところがある反面、違和感も感じる。
そもそも私の学生時代はまだwindows PCを持っている学生がそう多くなく、
論文などの電子データが簡単に手に入る時代ではなかった。
なので「論文のコピペ」ということ自体考えたこともなかった。
私よりも年上の世代では、「テストにおけるカンニングは絶対に許されない」
と置き換えたほうが話を理解しやすいかもしれない。
 
しかし、ここに大きな落とし穴がある。
「テスト」と「研究論文」は同格に扱っていいものだろうか?
テストにおけるカンニングは絶対に許されない。
上の一つ目の意見を主張している者は、これと同じ感覚で主張しているように感じる。
実際、上記の主張を
「授業(講義)で課されたレポートにおけるコピペは絶対に許されない」
とすれば、これは私も何の違和感も感じず同意することができる。
「自らの答案や文章にコピペを用いる罪」は、
「それにより得られる報酬の対価として本来求められる労力や能力を偽ること」
である。
受験におけるカンニングが許されないのは、本来必要とされる能力を持っていない人物が
受験の報酬である「合格」を得てしまうからである。
その能力のない人物が医者や検察になってしまったとき、
彼の周囲(患者など)の被る損害は計り知れない。
それだけでなく、彼のために本当に能力を持った人物が一人不合格になっている
という事実もまた、カンニングが社会にもたらす害である。
 
では、「研究論文のコピペ」の罪は一体何なのだろう?
研究論文は特許や授業のレポートとは違い、著者に対する直接的な利益は生み出さない。
せいぜい著者の研究活動における実績を示す証拠という程度であり、それが
積み重なると、著者に恵まれた研究環境(「ポジション」とも言う)が与えられたり、
あるいはその分野での権威としての知名度がついてきたりする。
もし画期的な研究成果を他者から盗用したりすれば、盗用した側が
本来盗用された側に与えられるべきそれらの益を奪ってしまうことになるが、
その場合は盗用された側も黙っていないだろう。すぐに分かる詐称行為なのだから。
いまのところ件の論文でコピペが確定している「マテメソ」については、
コピペ元の著者がそういった動きをしていないことから、
これは「利益の簒奪」をもたらすほど重大な罪ではない、ということだ。
 ;ただしこれは「マテメソ」コピペについての話。件の論文については現段階で既に
 研究成果の詐称にあたる証拠写真の流用(実質的な捏造)を著者サイドが認めており、
 その点において既に有罪確定済み。
 
むしろ本当に問題なのは、上に書いた二つ目のネット上の意見である。
今はまだ、1st著者の博士論文(D論)に関する検証は、ネット上でしか見られない。
しかし、そこで指摘されている問題部分は全くレベルが違う。
「背景の文章の大半がコピペ」というのはマスコミも取り上げているが、
それよりもとんでもないものがある。一目見てすぐに「おかしい」と分かるからだ。
これはつまり、このD論の審査者たちはただの一度も論文を見てさえいない、ということ。
いや、そもそも「審査者たち」が存在していなかったのかもしれない。
要するに、早稲田大学理工学部は「審査」をせずに彼女に博士号を授与した
ということである。
そして、彼女もそのことを事前に知っていた。知らされる何らかのルートがあった。
だからこそ、一目で分かる重大なミスを抱えた論文を見直しもせず提出したのだ。
博士号の重みは改めて説く必要もないだろうが、
全国で毎年誕生している博士達の博士論文はすべて国立国会図書館に所蔵される
という事実を今回の事件で知った人も多いのではないかと思う。
 
理研については、今後の上手な謝罪としっぽ切りによって責任から逃れられる。
しかし、早稲田大学理工学部はもうしっぽ切りのできる状況ではない。
切るのなら胴や頭を切るか、切らずにその場で身を焼かれるか、
そのどちらかしかない。今後相当深刻な事態になるだろう。
さすがに潰れてなくなる、ということにはならないだろうけど。