スペイン旅行記(1/4) ;幻想の画家

この夏に一週間ばかり休暇を取り、スペインを旅行してきた。
スペインは日本人にとって割と人気のある旅行先である。
「サッカー観戦がしたい」「フラメンコを見たい」「闘牛を見たい」
日本人がスペインへ行く理由は様々だろうが、私の場合は
この何年かをかけて実施している「世界の博物館・美術館巡り」の一環としてである。
ゴヤ、ベラスケス、ダリ、それにピカソ
スペインは世界的に有名な画家を何人も輩出している。
そして、そんなスペインで最も有名な美術館が首都マドリッドにあるプラド美術館だ。
 
プラド美術館は19世紀以前の美術品を展示しているため、
ダリやピカソといった20世紀に活躍した画家の作品は展示されていない。
それらは歩いて20分ほど離れた位置にあるソフィア王妃芸術センターにある。
ピカソの作品としておそらく最も有名な大作「ゲルニカ」もそこにある。
ゲルニカ」を見にソフィア王妃芸術センターへ行ったはいいが、
そこで「ゲルニカ」を探し出すのは結構大変だった。
そこは20世紀以降の近代芸術を扱っているのだが、
それらがあまりに前衛的過ぎてどこからどこまでが作品なのかすら分からない。
通っていいのか悪いのか、そこは通路なのか何なのか、それがまず分からない。
これはニューヨークのMoMAよりもなお激しいかもしれない。
それにそんなところにも監視員(美術館の職員)がいるので、
鑑賞もせず足早に通り過ぎるのも何だか気が引けた。
ようやくダリやピカソの”絵画”の部屋を見つけたときは、
それだけで気心の知れた世界に戻ってこられた安堵感を感じてしまった。
ピカソの絵は例によってピカソの絵、なのだが…。
(ちなみにスペインの美術館は写真撮影禁止でした。
 興味があれば、画像検索で見つけてね。)
 
本命はやはりプラド美術館のほう。
スペインがまだ世界の主役だったころ、
大航海時代である16~17世紀の絵画が飾られた小部屋が延々と並んでいる。
ヨーロッパ中の絵画が集められている、というわけではないようで、
それらを眺めているとスペイン絵画の特徴がなんとなく見えてくる。
最大の特徴は、何といっても宗教絵画が多いこと。
イエス・キリストの家族を描いたものが多く、天使が描かれているものも多い。
レコンキスタイベリア半島の再征服)や中南米の征服など、
スペイン人の歴史は狂信的といってもいいくらいの
熱心なカトリック信仰によって支えられている。それが絵画にも顕われている。
絵画としては油彩がほとんどだが、その塗り方は薄い。
むしろ筆致を残さないように苦心しているようで、
様式化を排して写実・リアリティを追求していたようである。
その反動がピカソやダリの超現実主義なのだろうか。
 
スペインの画家と言うと日本では何といってもピカソが有名だが、
スペイン絵画として最も典型的なのはエル・グレコではないだろうか。
エル・グレコ」は「ギリシャ人」という意味で、
実際それとは別のちゃんとした本名のあるギリシャ出身の画家らしい。
赤・青・黄色といった鮮やかな原色の衣装を身にまとい、そこには
黒くはっきりとしたしわやひだが描かれ(何だかビニールシートみたい)、
毛深いおっさんが斜め上を向いているような絵を書く人である。
おそらく絵を見れば「あ、これのことか」と分かる人が少なくないと思う。
私は今回スペインに行く前からエル・グレコの絵画を知っていたが、
今回プラド美術館に来てみてこれがエル・グレコ独自の画風なのではなく、
どうも当時スペインで流行っていた画風であるらしいことを知った。
「あ、これはエル・グレコだ」と思っても作者名が違っていることがよくあった。
 
ところが、そんなこんなを全て吹き飛ばしてしまうほど印象的な絵があった。
El Boscoの幻想絵画である。
http://lavidalenta.com/museodelprado/2009/05/post-2.html
ここが一応公式のHPらしく、その幻想絵画も見ることができる。
正式なタイトルは「快楽の園」というらしい。似た別の絵もあるようだ。
この絵には一応「神によって創られた人間が地上で生活し、死後に地獄へ行く」
というモチーフがあり、宗教絵画に分類されるようだ。
が、「そんなわけねーだろ」とバチカンに一蹴されそうな勢いがこの絵にはある。
今日の日本のマンガ界にあっても、ある程度の地位を築けそうな禍々しさだ。
実はもう一人、日本でも結構有名なゴヤもまたプラド美術館の常連画家であり、
しかも結構な幻想絵画群を書いているのである。
最も印象的だったのは、何といっても少し前に流行ったアニメの影響で
その名もまんま「巨人」。
 ;「ゴヤ」「巨人」で画像検索してみてね。ほんとにまんまだから。
もちろん古いのはゴヤのほう。ただし、彼がオリジナルだとは言い切れない。
だって西暦800何年だかに巨人が大地を歩き回っていたかもしれないし…。
 
アメリカのメトロポリタン美術館やロシアのエルミタージュ美術館
世界中から集められた様々な絵画や美術品がこれでもかとひしめき合い、
それらは見学者たちをただただ圧倒するばかりだった。
しかしプラド美術館はスペインゆかりの絵画が
一つ一つじっくり鑑賞されるように並べられており、
実際結構じっくり見て回っても半日で十分に見て回れた。
それにぎょぎょっとするような絵画も時々ある。
気張らず気軽に絵画を楽しむのには、プラド美術館くらいがちょうどいいと思った。