マスコミがAIIBを推す理由(前編)

本来ならばそれほど注目されるはずのないもの、アジアインフラ投資銀行、略称AIIB。
しかし、今では多くの日本人がこの名前を知っているだろう。
このところ連日のようにマスコミがニュースに取り上げているからである。
大した話ではないようなことでも、この件についてはなぜか大きく取り上げられる。
先日などは、単にドイツのメルケル首相が「日本に参加を促していた」というだけで
NHKの夜のニュースはトップニュースとして数分間の時間を割いて取り上げていた。
その前日に発生した広島空港でのアシアナ航空機の大破事故を差し置いて、である。
他の日には、朝出勤前の民放の情報番組で
「AIIBに参加することのメリットと懸念点」を検証していた。
一応メリットと懸念点を2つずつ指摘して公正な報道姿勢を取り繕おうとしていたが、
そうはいかない。
なぜなら、この時期に「AIIBに参加すること」を議論・報道している時点で
すでにAIIB寄りの報道姿勢だからである。

そもそもAIIBとは、昨年秋に中国が提唱した国際金融機関で、
「今年3月末までに参加を表明した国がその創設メンバー国として認定され
組織のルール作りに参加できる」とされている。
それゆえ、3月末の日本の報道番組は本当に酷い状態だった。
「AIIBへの参加を表明した国が○か国に達しました」
というだけの報道が連日繰り返されていた。
そのメリット・デメリット(懸念)についてほとんど議論も検証もせずに、である。
これでは「バスに乗り遅れるな」と日本国民をあおっているだけ
だと言われても仕方がない。
当時のマスコミの主張は
「3月中に参加を表明すれば、ルール作りに参加できて有利だ」
というものだった。であるならば、
既に4月に入った今「AIIBに参加すること」を議論する意味はないはずである。
にもかかわらずその報道を繰り返すのは、
「AIIBに参加すべき」という世論を作り出したいからだと解釈するしかない。

ここからがいよいよ本題。なぜ日本のマスコミはそのような世論を作り出したいのか?
もっと端的に言えば、なぜ日本のマスコミは日本をAIIBに参加させたいのか?
まずはマスコミ側の主張を検証してみる。
先述の朝の情報番組で指摘されていた”参加することのメリット2つ”とは、
○参加すれば日本が経済的な利益を得ることができる
○今から参加してもまだルール作りに間に合う

前者については、それが本当だとしたら理由としてまだ分かる。
ただしそれを受け入れるにはもっと詳しい検証が必要である。
「経済的な利益」とはいったい何か?
この場合は2つの可能性が指摘されている。
一つ目は、分担金を融資することでその利子を受け取る、というもの。
そして二つ目は、インフラの建設業務を請け負ってその代金を受け取る、というもの。
一つ目についてはまっとうな話であるが、それならばIMFやADBなどの
日本が既に参加している既存の金融機関への融資額を増やせばよいだけである。
そして二つ目については、発想からして既にまっとうではない。
JICA(国際協力機構)のように日本が独自に運営している組織であればともかく、
”国際的な金融機関”が業務請負先の選定を不公正に行ってよいものではない。
もしそうなるのであれば、組織内で最も力のある中国が
おいしいところばかりを持っていくという結果は既に明らかなのである。

後者については、もはや「え?」と言うしかない。
「創設メンバー国の申し入れはすでに締め切った」と中国が明言しているのである。
「まだ間に合う」という主張はいったいどこから出てきたのか?
残念ながら件の情報番組ではそこまでは説明していなかった。
いや、そもそも、仮に日本が3月中に参加を表明していても
重要なルール作りに日本の意見が反映されていたという保証はない。
中国は既に各国の出資比率を定めており、
中国が最大の比率;アジア担当分の半分をすでに受け持っている。
ということは、中国が反対するルールや案件はまず成立しないということである。
というかそれ以前に、「ルール作りに間に合う」というのは
「AIIBに参加する」という決断を下して得られる”メリット”ではない。
こうして冷静に考えてみると、
マスコミの主張する「AIIBに参加するメリット」には説得力がまるでない。

では、ネット上を席巻しているAIIB参加反対派の考える理由はどうだろうか?
ネット上での主流の意見は、
「中国だけでは出資金が間に合わず、資金面での理由で日本を巻き込みたい」
→ 「中国が日本のマスコミを買収し、参加賛成の世論作りを画策している」
というものである。果たしてそうなのだろうか? (後編に続く)