マスコミがAIIBを推す理由(後編)

(続き)
「資金面での理由で日本を巻き込みたい」
中国側がこのように考えることはあるかもしれない。が、
中国側がそれほど切羽詰っているとも思えない。
日本のマスコミを全て買収しなければならないほどに。
そもそも発言力を押さえるために自分の出資比率を高く設定しているのだから、
日本やアメリカのような中国の反対勢力にはそれほど出資してほしくない
中国の本音はむしろこうなのだと思う。
実際中国側のメディア(環球時報)はそんなような記事を書いていたと思う。
いや、それよりも、日本のマスコミがそれほど簡単に外国に買収されて
一方的な主張を曖昧な根拠しか示さずに垂れ流している
などという主張のほうが信じがたいではないか。

やはりネット上で主流となっている意見もそのまま受け入れることはできない。
双方の主張とも説得力を欠いているので、客観的かつ独自にその理由を考えてみる。
まずは、マスコミの思い通り今後日本政府がAIIBへの参加を受け入れた場合にどうなるか
を考えてみる。
日本のマスコミはそれで大いに勢いを取り戻すだろうが、それはここでの本題ではない。
むしろ重要なのは、中国側の反応である。
中国政府に関してはともかく、中国人民はそれを
「日本が我々中国の威に屈した、我々は強くて偉い」と解釈して喜ぶことだろう。
4月を過ぎた今なお日本のNHKがAIIBについて「日本も参加すべき」という論調で
トップニュースとして扱っている
とは中国や韓国でも大きく報道されており、
既にあちらの人民もこの件について様々な憶測を語り合っているのである。
そして人間の心理として、中国人民は現在持っている反日意識を緩和させるだろう。
これこそが、
日本のマスコミが日本をAIIBに参加させたがっている本当の理由ではないだろうか?

日本の小売業界は中国市場への進出を進めており、
この数年でそれまでよりもさらに深刻化してきている中国人民の反日意識が
その障害となることを憂慮している。
中国で製品を売りたい自動車や家電製品のメーカーも同様に考えている。
であるならば、もし確実に中国人民の反日意識を緩和させる手段があるならば
彼らがそれを実現させたいと考えたとしても不思議ではない。
そしてAIIBに出資されるのは日本の税金であり、彼らにとって直接の痛みはない。
それにおそらく、出資による直接的な損益は現在日本で議論されているほど
大したものではない。要するに、この件について彼らに大きなデメリットはない。
そしてこれらの業界は事実日本のマスコミにとって最大のスポンサーなのであり、
日本のマスコミが彼らの意図を受け入れて世論誘導を実施している
という状況は十分に考えられる。
少なくとも「日本のマスコミが中国政府に買収されている」というよりは信じやすい。

上記の仮説は現段階で私の個人的な憶測でしかないことをはじめに断った上で、
もしそうだとしたら私たち日本国民はそれをどう捉えればよいのだろうか?
まず、日本の小売業界(コンビニや衣料品販売会社)が中国に進出しても、
それで私たち日本国民が直接的な利益を得られることはない。
利益を得るのはそこで働くことになる中国人従業員であり、
そこから税金を徴収できる中国の政府・役所である。
企業としての収益も微々たるものであり、法人税としての国益もごくわずかである。
民生品(自動車や家電製品)メーカーの製造拠点の中国進出についても同様だ。
だとしたら、私たちが彼らの主張に同調する理由はない。

一方それによるデメリット・リスクについてはどうか?
中国にとって、人民の反日意識などというものは
官製デモ・暴動によっていつでも好きなときに作り出すことができる。
それはここ数年の中国社会が実証して見せている。
つまり、日本がAIIBに参加して中国人民の反日意識を緩和させられたとしても
それは一時的なことに過ぎない。いわゆるチャイナ・リスクがなくなることはない。
むしろ相手の威に安易に屈することは、長期的には反日意識をさらに高めることになる
という事実は既にこれまでの歴史によって実証されていることではなかったか?
かつての政権が安易に相手の威に屈して事実に基づかない謝罪を繰り返した結果、
それを求めた国の反日意識は現在どうなっているか?
私たちは歴史を直視しなければならない。

そもそも、AIIB参加によるデメリット・リスクは既に様々な方面から指摘されている。
多くは経済的なものだが、それはまだ日本の責任としてどうにかできる。
一番の問題は、「AIIBは環境破壊の深刻な案件や軍事・紛争案件に融資しかねない」
というものだろう。
既存のIMFやADBがそれらの点における審査を厳しくやっているのだから、
新規のAIIBが逆にそれらの審査を緩くすることは間違いない。
AIIBの融資のせいで環境破壊や弱者の弾圧が発生、あるいは酷くなったりしたら、
これはもう日本の責任だけでどうにかできるものではない。
それでもまだ、日本は目先の経済的利益が得られるかもしれないという理由で
AIIBへの参加を主張することができるだろうか?
日本国民は目先の経済的損益だけで物事を考えない、と私は信じたい。