シンガポール旅行記(3/3) ;ジャングル

シンガポールの市民は、一般に友好的で紳士的だ。
「洗練されている」「礼儀正しい」というのとは少し違うのだが、
昨今ネット上でよく言われる「民度が高い」という表現が最も近い。
自分の欲望を主張する前に周囲の人のことを考える、他者との協調性がある
といったところか。
分かりやすい例としては、電車の中で席を譲る光景を何度も目にしたことが挙げられる。
シンガポールの美観は罰金によって作られる」
シンガポールの街のきれいさ≒民度の高さについてしばしばこのように言われるが、
私にはそうは見えなかった。
彼らは自分自身の”善悪の気持ち”に従っているように見えたし、
そもそも罰金を請求するような警官も公安も街中でまるで見かけないのだ。

先に書いたように、シンガポールの物価は日本のそれとほぼ同じである。
食事に要する費用もほぼ同じだが、酒類は日本より明らかに高かった。
地元民が行くようなレストランで、ビンビール一本(633ml)が~7S$(=630円)、
外国人の行くようなパブだと~10S$といったところ。
日本と比べて1.5倍くらいしている。おそらく酒税がかなり高いのだろう。
というか、そもそもビールを含む酒類をあまり見かけない。
もちろんイスラム教徒がいることもあるだろうが、
イスラム色の濃くない中華街などでも酒類が売られているのを見かけなかった。
夕暮れ時になると、街のフードコートで「テ・タリ」と呼ばれる
ミルクティーのグラスを片手に談笑するおじさん達の姿をよく見かけた。

うーん、シンガポール人の娯楽はいったいどうなっているのだろう?
前回書いたようにシンガポールのテレビはほとんどが海外のテレビ局で、
正直これが主要な娯楽になっているとは思えない。
同じような番組を朝も夜も繰り返し放送している時点で、
放送する側の娯楽にしようという意図が希薄であることが分かる。
多くのアジアの国で国民的な娯楽となっているカラオケと映画、
この二つもシンガポールではほとんど見かけなかった。
海賊版(?)DVDを売る露天商の姿もシンガポールでは見なかった。
宿泊していたホテルの近くがベトナム人街のようになって、
ここだけは例外的にビールを出す庶民的なレストランがあったり
カラオケの店(;「KTV」と書くらしい)が何軒かあったりした。
またその先にあったショッピング・センター(I12)の中には映画館もあった。
が、外から分かる看板などは何もなく、賑わってもいなかった。

一方、街中に過剰にあるのはショッピング・センターである。
どこも大体同じようなつくりで、細長い3~4階建ての中央部が吹き抜けになっていて
その両側に個人経営の衣料・雑貨屋が並んでいる。
ただそれだけのところが結構多い(上記の「I12」は稀有な例外)。
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シンガポール人にとってはショッピングが何よりの娯楽、なのだろうか?
また、これだけで個々の店の経営が成り立つほど客・売り上げがあるのだろうか?
タイのバンコクでも同じような光景を見てきた。
が、タイは物価も安く、そう売れなくても店は何とかやっていけるのだろう
と思っていた。
しかしシンガポールの物価は日本とほぼ同じ。
ここの売り子(店主)が生活していくためには
年に数百万円分の利益を出さなければならないはず。
そんなことを考えると、シンガポールについていろいろと心配になってくる。

シンガポールは、全体で東京23区よりも少し広い程度の国土である(~720km^2)。
日本の鉄道並みに正確で本数の多い鉄道の路線がいくつか敷かれており、
この鉄道でどこへでも簡単に行くことができる。
その中にシンガポールをぐるりと一周できる路線があり(MRT南北線)、
それに乗ってシンガポールを一周してみた。
ちなみに、この路線を半周しても運賃はわずか200円ちょっとである。
市の中心部である南部では線路は地下を走っているが、
郊外にくると線路は地上に出てくる。
それで沿線の光景を見ることができるのだが、
これがいつまで行ってもひたすら巨大な集合住宅の並ぶ団地ばかり。
いわゆる”コンクリート・ジャングル”というやつである。
ああ、こんなところには住みたくない。
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北側に来ると、いまだ開発の手から逃れている本物のジャングルも見られた。
ならば鉄道沿線を離れて奥に入れば本物のジャングルなのかとも思ったが、
ネットでシンガポールの航空写真を見ると
既に国土の大半がコンクリート・ジャングルで覆われていた。
中央部の保護地区(サファリ等がある)を除くと、
本物のジャングルは全体の2~3割程度だろう(多くが鉄道でも行けない西部)。

さらに恐ろしいのは、現在建設中の集合住宅もかなり多いという事実。
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あちらには地震がないのか、高層建築物でも壁や柱が薄く(柱も”薄い”)、
造ろうと思えば安価かつ短工期でできてしまうはず。
にもかかわらず建設中の集合住宅が多いということは、
「集合住宅の棟数の増加速度が異常に速い」ということである。
シンガポールの主要な働き口は、個人商店と建設業なのではないかと思う。
しかしもう国土に空き地はそうないのだから、これがあと何十年も続くとは思えない。

他では見られない規模のコンクリート・ジャングルをさらに進化させている
シンガポールの人口・人口密度はさぞかし凄まじいものだろう。
そう思って調べたところ、外国人労働者まで含む全人口は550万人、
東京23区の人口(900万人)の6割程度でしかなかった。
面積は東京23区よりも少しだけ広いので、
人口密度で言うと東京23区の半分程度ということになる。
えーっ?信じられない。東京の人口ってそんななの?
逆に言うと、シンガポールはまだまだ(住宅の)開発の余地ありってこと?
まだあと何十年も今のようなペースで集合住宅を造り続けられるってこと?
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正直、シンガポールは今現在労働力が不足しているとは思えない。
出生による人口の自然増はともかく、
移民を大量に受け入れてまで人口を増やす必要はないだろう。
それよりも、庶民レベルの娯楽や文化の開発に力を注いではどうか。
シンガポールでは、国民の平均的な”生活の質”は十分高い。”人間の質”も高い。
今後は国民の平均的な”人生の質”を高める方向に意識が進めばいいのではないか
と思う。
せっかく立派な社会ができているのだから、ただ生きているだけではもったいない。