安保法案の顛末を見て(後編)

 (続き)
では、今後彼ら(野党)が立ち直るにはどうすればよいのだろうか?
やがて時がたてば、今は政界を独占する与党内部に慢心と綻びが生まれ、
またタナボタ的にどこかの野党が政権をとることになるかもしれない。
しかしそんな事態は日本国民にとって望ましいものではない。
今はこんな野党であっても、
政界の健全性を維持できる程度にまでは立ち直ってもらう必要があるのだ。

まず第一は、絶対に民主主義を否定しないこと。
これは「立ち直るために」ではなく「日本で政治に携わるのに」必要なこと。
「数の上で野党は絶対に勝てない」→「民主主義を否定する」
という論理に陥る者がいたとしても、おかしくはないのかもしれない。
が、これは絶対に駄目だ。
今現在民主主義の国で、民主主義を否定して政権をとることを目指すとは、
すなわち武力によるクーデターを目指すということ。
なに?武力に頼らない政権奪取&独裁を目指す? それはなおのことアカンやつだ。
民主主義の下で独裁(への移行)を実現させる方法は一つ、「国民の洗脳」だからである。
全体主義、英語でいうファシズムもまた、広義の洗脳と言っていいだろう。
本来最も大切であるはずの自分自身より大切な価値対象を
個人に持たせようというのだから。
そう考えると、これは当事者だけでなく周辺にも重大な被害をもたらすことが
歴史的に証明されている。絶対に認めてはアカンやつである。

民主主義を否定せず、自らの理想を実現させたいとなると、
これはもはや広く国民の支持を得て自分たちが政権与党になるしかない。
そういう覚悟を持てばこそ、常に国民の思いにアンテナを向けようというものだ。
もちろん、多くの国民の思いにそっぽを向き、ひたすら自分たちの信奉する筋を通す
というやりかたもあるかもしれない。
がしかし、それでも次のことを忘れてはならない。主権は国民にあるということを。

続く第二の守るべき事柄は、「特定の敵を掲げてはいけない」。
今回、野党議員もデモ隊も明確に日本の首相を“敵”として掲げていた。
そもそも、この世の中にあって、特定の敵を掲げる集団にろくなものはない。
カルト宗教(警察や一般人を敵としますね)、ヘイトスピーチ、それにアジアの某国。
確かに警察は犯罪者と対峙するが、敵として掲げているわけではない。
一般に人は特定の敵を作ると、思考が硬直し、他者の意見を聞き入れなくなる。
今の野党議員の多くはこの段階だが、怖いのはこれが終わりではないということ。
人は特定の敵を掲げると思考が硬直するばかりでなく、
やがては憎悪の念に取りつかれてしまうのだ。
そうなってしまった者の見苦しさを思い浮かべられる人は、まだ大丈夫。
「“敵”は人から憎まれて当然」と思った人は、
ちょっと立ち止まって考えてみたほうがいい。

この第二の事柄をさらに一般化させると、「感情論を主張してはならない」となる。
人間の心理として、感情論を聞かされて同調するのは、同じ意見の持ち主だけである。
異なる意見の持ち主は反感を強めるだけだし、
どうでもいいと思っている人はその主張に対して距離感と不信感を感じる。
したがって多数派の支持を得ている与党側が感情論を展開するのは分からなくもないが、
そうでない野党が感情論を主張すれば逆に“支持の可能性”を失う結果になる。
異なる意見の持ち主の考えを改めたければ、地道に論理で訴えるしかないのだ。
「論理で訴えたって通じない、感情的に煽るほうが早い」
これほど有権者をバカにした考え方もないだろう。日本人はそれほどバカではない。

では、与党と対立しなければならない野党は今回、
安保法案に対してどう取り組めばよかったのだろうか?
安保法案に反対したいのであれば、安保法案のデメリットを指摘しなければならない。
野党の主張していた安保法案のデメリットとは、結局「戦争になる」くらいだった。
安保法案が成立すると、日本とどこが戦争になる?それはどんな戦争なの?
そもそも、なぜそれが「戦争になる」につながるのだ?
話に具体性がなく、説得力もない。

実は、どんな方策に対しても簡単にそのメリットとデメリットを見出す方法が存在する。
損得の対立軸として<現在>と<将来>の二つの観点から見るのである。
たとえば予算のばらまき政策の場合、<現在>において国民にメリットがあり、
<将来>には国に「負債と利息返済額の増加」というデメリットがある。
安保法案の場合、メリットは<将来>において「国家存続の可能性を高めること」だ。
この点について異論の余地はない。
であるならば、安保法案のデメリットは主に<現在>にあることになる。
だが、安保法案が成立しても増税の必要はないし、国内にデメリットは見つからない。
視野をもっと広げてみると…、あった。それは海外にあった。
今回の安保法案に対して反対している国々との関係の悪化、である。
他にもいろいろ考えてみたが、
具体的で説得力のあるデメリットはこれくらいしか思いつかなかった。

そう、今回の安保法案に反対したかった者は、国民に対して論理的に
「今回の安保法案には『それに反対する国々との関係が悪化する』デメリットがある」
と主張すべきだったのである。
そうすれば見苦しいパフォーマンスでその権威を失墜させることなく、
安保法案を支持する人々に対して考え直すよう訴えかけることができたのだ。
…なに?それでも結局支持は得られなかったのではないか?
うーん、そこまでは知らない。
それより先は、本当に今回の安保法案に反対する必要があったのかどうか
そこから考え直してみてはどうだろうか。