ベトナム・サパ旅行記(2/3) ;低学歴のガイド

前回の記事で何度か出てきたガイドは自らを「リサ」と名乗っていたが、
彼女にはいろいろとお世話になったばかりでなく、いろいろな話を聞かせてもらった。
まず、その経歴からして尋常でない。
家が貧しかったため、人身売買のような形で幼いうちに許婚を決められ、
若干13歳でその相手と結婚させられたという。
したがって彼女の最終学歴は「小卒」なのである。
見かけによらず結構年配?と思ったが、現在24歳とのこと。
そして上記の話が本当である証拠に、現在10歳になる男の子がいる。
そんな経歴のリサさんが現在は4つの言語を使いこなしガイドとして稼いでいることは
前回の記事に書いた通り。
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彼女の旦那さんも私のツアーに協力してくれたが、
田舎の朴訥な青年そのものという感じだった。ちなみに彼も同い年の24歳とのこと。
前回の記事に書いた料理はこの旦那さんが作ったとのことで、
日頃も家でよく料理を作るのだと言っていた。
日本ではちょっと考えられないような身の上話を聞かされたが、
その結果現在では幸せそうな境遇にあって安心した。
他人事ではあるのだが、こちらまで明るく温かい気持ちになる。
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「低学歴の女性ガイド」といえば、一昨年前に訪れたミャンマーヤンゴン
“自称ガイド”のことが思い出される。(↓記事参照)
https://blogs.yahoo.co.jp/ttakagi6/18519454.html
かの地では珍しいレベルの流暢な英語を使いこなし、
手慣れた様子で窯焼き工房やスラムの観光案内をする力量がありながら、
地元の闇勢力とつるんで経済援助を行っている日本からの観光客から
法外な料金をふんだくっていた彼女である。
スラムの出身だという彼女は、
「私は大学へ行けなかったから、旅行会社の正式なガイドにはなれない」
と言っていた。
確かに、その旅行でお世話になった正規のミャンマー人ガイド(日本語ができます)は
日本で言えば東大に相当するヤンゴン大学を卒業していると言っていた。
それに加え、かなり裕福な家庭で育ったお嬢様だとも言っていた。
そんな背景もあり、
安くないガイド料をぼったくられながらも私は彼女に同情的であった。

しかし考えてみると、ミャンマーにはそれほど多くの大学があるわけではない。
少子化が進んで大学の定員が有り余っているというわけでもない。
つまり、「大卒」という学歴は日本のように当たり前のものではないはずだ。
だとすれば、スラム出身でありながら高校を卒業して英語で高いグレードを得た
という彼女はかの地において決して低学歴とは言えず、
むしろ相対的に高学歴と言ってもいいくらいなのではないか。
そのうえ若くて確かな実力を持つ彼女を
高度経済成長の入り口に立つかの地(ヤンゴン)に進出する企業が
放っておくはずがない。
ガイドの職が得られるかどうかはともかく、そこにこだわらなければ
夢と希望にあふれる未来が手に届くところにあるのだ。
なのに、そのような明るい世界の反対側にある地元の闇社会とつるむのは
明るい未来への道を自ら閉ざしてしまいかねない。
聡明な彼女はもちろんそういうことも考えていることだろう。
ヤンゴン川で出会った低学歴の女性ガイドのことを想うと、
やはり暗い気持ちになってしまう。

今回お世話になったサパのガイドさんは、話しぶりからも聡明さを感じさせた。
トレッキングの途中で出会った別の欧米人のグループに対して
英語で軽くジョークを飛ばしたりもしていた。
彼女と一緒に昼食をとっていた時に日本の料理の話題が出たので、
「最も有名な日本料理はやはり寿司でしょう。リサさんは寿司は好きですか?」
「sushiはどういう料理ですか?」
はじめは冗談を言っているのかと思ったが、彼女は本当に寿司を知らなかった。
そのことに気づいたときは正直かなり驚いた。
欧米人に対してジョークを飛ばせる彼女が、寿司を知らないなんて‥‥。
寿司がどういう食べ物なのかを(英語で)説明しようと試みたが、途中であきらめた。
寿司を全く知らない相手に、それをどうやって説明したらいい?
というかそれ以前に、彼女に興味がなさそうだった。
今まで見たことも聞いたこともない外国の料理の知識が私にとって重要なのか‥‥?
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彼女は今、お金を貯めているのだという。
おいしいものが食べたいのでもなく、楽な生活がしたいのでもない。
自分たちが管理している田んぼの一部をつぶし、
ホームステイ用のゲストハウスを作っているのだという。
昼にトレッキングに連れて行った観光客をゲストハウスに連れて帰り、
夫婦で作る夕食でもてなし、田んぼの真ん中で一夜を過ごしてもらう。
今、この辺りの村でそういうスタイルの観光が流行っているらしい。
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高級ホテルがいくつも建ち並ぶサパの街に戻り、食事をとる店を探した折、
寿司や刺身の食べられそうな店を探したが見つからなかった。
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おそらくリサさんとその家族が寿司を食べる機会は当分ないだろう。
寿司に類するおいしい料理も食べられないのかもしれない。
けれども、彼女はそれに勝る、日本人が求めても簡単には得られないものを
たくさん持っているように思われる。
きっと彼女は、世界的に見ても上位に位置するほどに幸福な
低学歴の旅行ガイドなのである。