テオヤンセン展見てきた

東京お台場の日本科学未来館で開催されている、テオ・ヤンセン展を見てきた。
日本でテオ・ヤンセンを知っている人はまずいないと思う。
海岸をギシギシいって歩く不思議なロボット風オブジェを作っている人で、
その作品がごくまれにテレビで扱われたりする。
私も何年か前に一度テレビ(世界まる見えテレビ)で見ただけだが、
その強烈な印象がずっと頭に焼き付けられていた(作者の名前までは記憶していなかったが)。
葦の茎だけで作られたようなチープな構造体が、動力源も燃料もコンピュータもなしに、
自動的に歩行しているように見えるのだ。
 
実際は風を受けて風力を動力にして動いているのだが、大きな帆や風車があるわけではない。
背中にある、飾りとしか思えないような小さな背びれで風を受け、
それだけの力でマイクロバスほどもある巨体が歩き続けていく。
歩き方は、人間の足を2本→たくさんにした感じの構造(;30人31脚走、的な感じ)が
脚を前方に踏み出すことの繰り返し。
二足歩行のネックである一本足直立状態でのバランスという難問を回避しているとはいえ、
歩行の機構はしっかりと再現されている。
電子部品に頼らない簡易的なセンサーを備えて、障害物を察知すると進行方向を変えたりも
できるのだという。
 
私の頭に印象付けられたのは「動力もエネルギーもなくしてなぜ歩行し続けられるのか?」
という点だったのだが、風力をエネルギー源としている、と聞かされてもまだ納得に到達しない。
やはりエンジンのような動力機構は存在しないのだし、あの背びれで得られる風力だけで
歩くというのはおそろしく効率的な機構でなければならない。
構造をさらに詳しく見ると、車軸に相当するものを回転させ、
その回転を複数の関節の組み合わせで脚の踏み出し運動に変換させている。
ところが、車軸は単一ではなく短いものが独立して複数存在しており、
骨格を構成するパイプと同じチープな細い代物である。
さらに、関節や軸受けも摩擦低減対策などまったくなされておらず、
それゆえ生じる「ギシギシ」という摩擦音が彼らの際立った特徴でもあったりする。
まっすぐで頑丈な一本の車軸を用いたり、関節部にベアリングを用いたりすれば
もっと効率的になりそうだが、それはこの作者の意図・あるいは美意識に反するのだろう。
 
作者の関心はこれらの機構の「自律性」にあるようで、彼は自らの作品を生物に見立てている。
実際私も電子部品を用いない自律機構やフール・プルーフ設計には興味があり、
我々が今後目指すべき発明の基本指針の一つであると考えている。
しかし、これらの作品にはそれ以外にも重要な達成が含まれているように思う。
それは多足歩行という機構である。
古来より、「車輪は人類の最大の発明」だと言われている。
確かに今日の陸上輸送は(ヒトを除けば)100%車輪に担われている。
しかし車輪には「オフロードや段差の安定走行」という難題があり、
その解決のために二足歩行や動物を真似た四足歩行の研究がいろいろとなされている。
が、この点において、私は今回見てきた「多足歩行」のほうがはるかにスジがいいと感じた。
反論したい人、今どこかで二足・四足歩行の研究に携わっている人があれば、
ぜひ一度日本科学未来館へ行って実際にあのギシギシを歩かせてみてください。
来年2月までこの展示をやっているそうです。