昨日のNHK科学番組

先日NHKの科学番組で、「ウィルスによるがんの治療」について放送していた。
(番組自体は昨夏に放送した分の再放送だったようだが、本放送は見逃していたようだ。)
これを観て、久しぶりに科学技術について感心した。
将来的に、がんは手術なしで完治できる病気になる、と確信した。
こんな確信を得た瞬間って、人生のうちにそう何度もない幸福な瞬間なのだろう。
私にとってがんが身近になるであろう20年後くらいまでには
その技術が確立されていてほしいものだが、
少なくとも来世紀にはがんは今日の結核破傷風のような存在として語られているだろう。
 
その技術の核心は細胞のアポトーシスを逆手にとって利用する、というものである。
正常な細胞はアポトーシスによって死ぬが、がん細胞はアポトーシスを起こさない。
がん細胞の定義ともいうべきこの性質を逆手に取り、アポトーシスを誘発する
ウィルスをがん細胞でだけ増殖させよう、というアイデアである。
見てない人にはうまく伝わらないかもしれないけれど、興味があったら自分で調べてね。
そのほかにもいくつか、予備的というか安全機構的な性質を組み込もうとしているようだが、
私にとっては上のアポトーシス逆利用の話が最も衝撃的であった。
 
なにがそんなにすごいと感じるかというと、「アポトーシス」という神の御業を
人間が使い、完全に近いフール・プルーフの機構を実現させられる点である。
重力や電磁気が「神のルール」であるとするならば、アポトーシスは「神の御業」である。
あるいは、切った・貼ったを「人の業」とするならば、アポトーシスは「神の御業」である。
多細胞生物を「神の手によるクリーチャー」とするならば、やはりアポトーシスは「神の御業」である。
実際アポトーシスってかなり乱暴なシステムであるようにも見えるが、
よほど特殊な遺伝病を除けばアポトーシスによる人体への害ってないよね。
そんなところもアポトーシスが特別にエレガントなシステムだと思える根拠である。
 
気になったのは、がん細胞の付近で増殖させたウィルスにがん組織を攻撃させる方法である。
番組では、ウィルスに抗体の標的物質(つまり抗原)を生成させ、免疫システムの力で
がん細胞を攻撃するという手法が紹介されていた。
でも普通に考えたら、「ウィルス自体に強病原性を与える」だよね。
まあ、そうしないで上のような手法をとるところがなんとも日本らしい、とも思う。
(ていうか日本ではそうでないと認可されないのかもしれないが。)
しかしそのような治療法が日本で確立された数年後、中国では強病原性付与のバージョンの
治療法が確立され、日本よりもはるかに安価かつ短期間で治療できるとあって、
客を全部中国に取られる、なんて事態が今から目に浮かぶような。
…と思っていたら、同様の治療法(医薬品?)が中国では既に認可されている、とか。おそるべし。