悪の支配者

「悪の支配者」と聞いて私は、スター・ウォーズダース・ベイダー、ではなく、
彼を手先としてうまく働かせていた「皇帝」を思い浮かべる。
新三部作の最後(エピソード3)にこの皇帝の正体が明かされるのだが、
エピソード2の段階ですでに共和国の議長が十分怪しかった。

旧三部作を見ていたころは
「きっと共和国の勢力と帝国の勢力との壮絶な戦争があったんだろうなあ」
と想像していた。しかし新三部作で明かされたところでは、
既に議長として共和国内部で支配的な地位を得ていた人物が
共和国をそのままスムーズに帝国へと移行させた、というものであった。
そのために彼は様々な策謀や演出を行っており、むしろ気を使うタイプに見える。
おそらく彼は帝政移行後も気を使った演出や政治を続けたのではないかと思う。
彼が「悪の支配者」であったのは帝国に属さない反乱軍や辺境の惑星にとってであり、
惑星コルサント(;銀河共和国/帝国の首都)の国民からすれば
それなりに支持された支配者だったのではないかと思う。
旧三部作では、コルサントの住民の視点は一度も描かれていない。

この姿は、アメリカの大統領と重なる。
アメリカの大統領も米国民にとっては支持すべき支配者であり、
彼の存在もしくは働きにより米国民の安全と繁栄がもたらされるものと考えられている。
世界中の反米的な勢力や辺境の国には戦争や米軍基地の負担を押し付けている
という事実はともかくとして。
一方彼に気を使われる側の被支配者は、支配と共に恩恵を享受する。
この場合与えられる恩恵として顕著なのは、国家・国民の安全保障であろう。
それが深刻に脅かされた9.11事件の直後、米国民は歴史上にも稀なほど
自らの支配者たる大統領を支持し、団結の姿勢を示した。
支配というくびきを受け入れる代わりに、安全保障という恩恵をさらに強く求めたのである。

現在の日本に住む私達にとって、このように明確に支配者たる者はいない。
しかし、支配者たる物ならばある。
原発である。
3.11以前、私達はその危険性や後始末という問題を抱える代わりに
安定した電力という恩恵を原発から得ている、と考えてきた。
しかしフクシマ以後、私達は
原発なしにわが国の経済・豊かな生活は成り立たない」
原発代替エネルギーは非現実的、ありえない」
原発と事故・放射能汚染が不可分であるとしても、原発は不可欠」
という意見の氾濫を目の当たりにすることとなった。まさに支配者のくびきである。

思うに、原発擁護論は「被支配者の主張」である。
安易に原発擁護論に流れる者の心には、被支配者の性根が染み込んでいる。
「かみさんの尻に敷かれたくない」と考える男性は、
原発擁護論を唱える女性を探せばよいのではないだろうか。
ただし、被支配者根性に染まった者は自分以外の他者の視点を理解しない
という性質を併せ持つ可能性が高いことを、あらかじめ警告させていただく。