ネパール旅行記(3/4) ;ガイドたちの物語

観光地、特にアジア諸国では、英語や日本語で気安く話しかけてくる現地人は相手にしない
というのが常識である。
ところが、ネパールではこの常識を持って歩くとかなり大変である。
日本人面した観光客が一人で観光地を歩いていると、必ず誰かが話しかけてくる。
もちろん彼らには下心があり、その(とりあえずの)目的は「私設ガイド」である。
 
ネパール旅行の初日に、高台からカトマンズ市を一望できると紹介されていた
スワヤンブナート寺院を訪れた。
イメージ 1
丘の頂にある寺院を一人で巡っていると、「私がこの寺院のことを教えてあげます」
と一人の男性が後ろから声をかけてきた。
はじめは当然断って振り切ろうとしたが、どこまでもしつこくついてくる。
後からいくらかチップを渡せば済むことかと思い、結局折れて彼について回ることにした。
彼は「自分は学生で、歴史の勉強をしている。だからこの寺院について詳しい。」
と言っていたが、後で話をしていると
「自分は今26歳。結婚していて子供もいる。
 家賃3,000ルピー(=\3,300)の狭い部屋に住んでいる。」
と言っていた。こんなネパール人が学生ということはないだろう。
しかし、観光客では普通見つけられないようなスポットにもいろいろつれていってもらい、
ネパールの宗教、寺院についてそれらしい話を聞けたのも事実である。
別れ際に礼を言って500ルピー札を渡すと、「全然足りない。2,000エン」と言われた。
仕方なく1,000ルピー札を渡し、
「同じような客を後二人捕まえれば家賃が払える。ガイドがうまいからあなたならできる」
といって振り切った。
ちなみに、カトマンズの日用品物価は日本の約1/10、
1,000ルピー札は日本の1万円札のような存在だと認識している。
 
カトマンズの主要な観光名所には、その施設公認のガイドもいる。
彼らは施設の料金所に控えており、やはり観光客についてくる。
パシュパティナートというヒンドゥ教の寺院がこのパターンだった。
イメージ 2
寺院の裏山にフェンスで囲まれた動物保護地区があり、
施錠された入り口を門番が見張っていた。
一般客立ち入り禁止のこの区域も、公認ガイド同伴だと中に入ることができた。
このガイドは本格的で、態度は紳士的だった。ただし雑談はほとんどなし。
最後ガイドを終えたときに「チップがほしいのか?」ときくと、
「私はガイド料が唯一の収入だ。入場料と同じくらいほしい」と答えた。
ちなみにその額は500ルピー。今回の旅行中会ったガイドの中で一番安かった。
 
施設専属/私設ガイドとも、基本は英語のみでの対応である。
聞いたところでは、現在ネパールでは小学校で英語を教えているとのこと。
日本語が通じたのは、唯一日本の旅行代理店が手配したガイドのみである。
彼には空港-市内の送迎のほかナガルコット日の出観賞ツアーなども
お願いしていたので、いろいろと話をする機会が多かった。
彼はもちろん日本からの観光客を専門に扱っており、
山岳地方へのトレッキング・ガイドも行っているのだという。
驚くべきは、日本人観光客の7割以上が60歳以上の高齢者なのだという。
ぶっちゃけ、若者でも女性の旅行は厳しいだろうと思っているのに…。
ただし、高齢者はほぼすべてが団体旅行だとのこと。
ネパールの道路事情は悪く、大型バスでの団体旅行は非常に困難、
それに、少人数で時間的に余裕のある旅行でなければ
ネパールのよさは味わえない、と主張していた。
 
しかし最も印象に残っているのは、
旧市街地区を散策していたときについてきた最も若い私設ガイドである。
自称21。ポタラ出身。一人暮らしで、カノジョはいるがうるさいだけ。
歴史を学ぶ大学生だが、それとは別にタンカ(;マンダラ画)の修行もしている。
今日は休みで暇だから、特別にあなたをいろいろな場所に案内する。…
「同じような話を何度も聞いたし、同じようなガイドの世話にもなっている。」
というと、
「日本人にとっての小さなヘルプが私達にとっては大きなハッピー」
などと調子のいいことを言っていた。
実際調子のいい若者で、街でよく遊び慣れている感じだった。
それゆえ私は彼の言う「自分は大学生」という話を何も疑わずに信じたが、
前述の日本人担当ガイドいわく、「日本の大学生とネパールの大学生は違う。」
ネパールの大学生は遊び人ではなくエリートだ、ということらしい。
遊び人とはいえ、「昼食を食べたい」というと
賑わう町並みを見下ろせるビルのレストランに連れて行ってくれたし、
「映画を見たい」というと映画館でチケットを手配して案内までしてくれた。
街中で声をかけてきて強引に付きまとい、最後はガイド料を請求する
という手法はいかがわしい以外の何ものでもない。
しかし、請け負ったガイドの仕事はしっかりやるという意識を持っていると感じた。
 
こういう連中に1,000ルピー、2,000ルピーなどという大金を渡してはいけない、
こういう稼ぎ方を助長することになる、という意見があるかもしれない。
実際テロリストやぼったくりには断固として金を渡さない
という主義の友人も何人かいる。
けれども、ネパールに関しては私はもう少しおおらかな考えを持っている。
正直、ネパールの社会、インフラの充実度は私が実際に見た国の中では最悪である。
道路にはごみがあふれ、聖なる川は濁り悪臭を放っている。
自動車やバイクの交通はめちゃくちゃで、事故が(それほど)起きないのは
やはり街にあふれる神や聖獣の奇跡の産物。
街にはトイレがない。観光客はいつも困っているが、住民は困らないのか?
私は、高齢者や女性、それに海外旅行の初心者にはこの国への旅行を薦められない。
ところが、「観光資源」という点においてこの国は世界でもトップクラスなのである。
これほどもったいない話はない。この国には、観光立国を成し遂げる資質がある。
私は、そのことをネパール人一人一人に認識してもらいたい。
観光客から1,000ルピーをせしめた彼らが、日常の生活の中でふと、
明日、来年、10年後に自分、もしくは故郷の後輩が観光客から
1,000ルピーをせしめることを考える。
そんなことでも、この国が幸福になる一歩になるのではないかと思っている。
イメージ 3