モロッコ旅行記(2/4) ;アトラスの大地

ロッコは、鉱物愛好家の間では結構一目置かれる国である。
ミャンマー(特にモゴック)やブラジル(特にミナスジェラス)ほどではないにせよ、
そこそこメジャーな鉱物標本や化石を豊かに供給している国として有名である。
有名どころでは砂漠のバラや三葉虫の化石、きれいどころではバナジン鉛鉱やぶどう石、
そして誰もが知っている(?)アラゴナイト・アーチン。
 ;知らない人は「アラゴナイト」「モロッコ」で画像検索してね。
それらを産するのは、アトラスの大地である(まあ「砂漠のバラ」はガチで砂漠だが)。
前回書いたように、私達の想像する砂漠らしい砂漠はモロッコにはあまりない。
ロッコの土地を特徴付ける最大の要素は、実はアトラスなのである。
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アトラスそのものは高く険しい山脈だが、異様なのはその背後に広がる土地である。
何よりも目を引くのは、どこまでも真っ直ぐに延びるむき出しの地層であろう。
日本で見られる地層はせいぜい山腹に一部だけ顔を出す「線」であり、
大抵は周囲の圧力によって卑屈にも曲がりくねっている。
しかしアトラスの台地に広がる地層は、山を越え谷を越え、どこまでも真っ直ぐである。
それゆえ、地層が「線」ではなく「面」であることがよく分かる。
これらの地層はどのようにしてできたのだろうか?
教科書では「川や湖の底に、堆積作用の結果できる」などと説明されている。
しかし、あそこで見た地層は「川や湖」等というスケールではない。もっとデカイ。
ならば海か?というと、海底に数百mもの厚みの堆積層ができるというのも考えにくい。
ちなみに、堆積活動の活発な大陸棚の水深は、深くてせいぜい200~300mである。
いずれにせよ、想像を絶する広大な場所で長い時間をかけてできたものに違いない。
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時間がかかっているのは積層プロセスだけではない。
できた地層が浸食されるプロセスにも途方もない時間がかかっているはずである。
なぜならば、かの地は砂漠、雨が降らないからである。
「風化」などとも言うが、やはり雨が多いのと少ないのでは歴然と違うはずだ。
アトラスの山腹や強国の周辺部を見ていると、何だか妙な不安定感を感じた。
考えた末、その原因が「土砂の斜面」であることに気がついた。
日本では、土砂の斜面はあり得ない。
すぐに雨水で流されるか、樹木が繁りそれらの根によって隠蔽、保護されるからだ。
しかしモロッコでは、雨水も樹木もほとんどない。
あちらではどこでも見られる土砂の斜面は、今後も末永くそのままの姿であり続ける。
 
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そういうわけで、硬い地層からなる地盤に守られた台地の上は平らだが、
浸食を受けた低地には「平野」が少ない。
その狭い平野の中でも、水が容易に得られる谷底の一部に耕作地ができる。
そしてその耕作地の合間合間に人々の住む集落が形成される。
このような光景を見ていて、ふと思った。あれ、これって、シルクロードと似ているな。
はるか遠方には雪をいただく山脈と住んだ青空、近くには不毛の山肌、
そして谷底にはまばらな潅木と不規則な耕地、そして泥で作られた住居からなる集落。
実は、そこに住む人々もまたシルクロード周辺地域との共通点が多い。
ロッコ国民はアラブ系の彫りの深い顔立ちで、髪は黒髪が多い。
古代中国的な表現をするなら、まさしく「胡人」である。
イスラム教を信奉し、テンポの速い音楽を愛する。
砂漠に生き、らくだを遣い、交易を生業とする。
なんだ、はじめはシルクロードに行きたかったのだが(冬は寒そうなのであきらめた)、
今回の旅行でその雰囲気を感じることができてしまっていたのか。
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アトラスの大地のみやげに、中に小さな水晶のびっしり詰まったジオード(晶洞)を買った。
日本円で\1,000~\2,000程度。手のひらサイズで、割ったもう一方も付いている。
特筆すべきは、きれいな色に着色されていることだろう。きらきら感もアップしている。
鉱物好きは「自然の標本を着色するなんてとんでもない」と憤慨しそうだが、ご心配なく。
有機色素を吸着させているだけなので、水で洗うとほとんど落ちます。