ボルネオ旅行記(3/4) ;マレーシア人の休日

今回のコタ・キナバル旅行では、航空券だけ旅行社でとってもらい、
宿はネットで自分で予約した。
…が、何をどう間違えたか、市街地から遠く6kmも離れたホテルをとってしまった。
そのホテルは"シティ・モール"というショッピング・モールに隣接していた。
ここは市街地から離れているため一般の観光客が訪れることはなく、
ゆえに静かで落ち着いている
ということで、地元客が休日を過ごしにやってくるショッピング・モールであった。
そんなわけで、図らずもコタ・キナバル市民のリアルな休日に触れることができた。
 
前にも書いたが、コタ・キナバル周辺は想像以上に発展・近代化されていた。
道路はきれいに整備されており、一人一台と言っていいくらい自動車が普及している。
それも、正真正銘の日本車が多かった。結構大きなやつ。
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そのおかげで他の国と比べてタクシーが少なく、旅行者の移動は大変だ。
ショッピング・モールも、日本やアメリカにあるものに近い。
アジアン・テイストはあまり感じない。個人的にはあまり魅力的でない。
映画館やレストラン、スイーツ・スタンド等もあり、
学生から子供連れの大人まで日本やアメリカと同じように楽しむことができる。
家電の店では最新の電化製品が揃えられていた。液晶テレビをチェックすると、
有名メーカーのハイスペック・モデルがいずれも10万円前後で売られていた。
マレーシア人にとっても手の届かないような価格ではない。
これでは日本メーカーが苦戦を強いられるわけだ。
 
ただ、ここにはないものもある。アルコール類だ。
夜はテレビを観ても言葉が分からなくてつまらないので、バーで過ごすのがよい。
そう思ってショッピング・モールにあるレストランを一軒ずつチェックしたが、
どの店もメニューにアルコール飲料が書かれていない。
そう、マレーシアはイスラム教徒の多い国で、アルコールは好まれないのだ。
レストランと言ってもバリバリの中華料理屋やイングリッシュ・スタイルの店も
あったのだが、それらの店のメニューにもアルコール飲料は皆無だった。
…ただ、馴染みらしい欧米人の老夫婦や接客業風の女性グループは
メニューにないワインやシャンパンを飲んでいた。
マレーシア人にとってアルコール飲料は敬遠される、恥ずべきものであっても
禁止されるべきものではないらしい。
大きなスーパーマーケットの片隅に「non halal」と記された小部屋があり、
そこには外国産のアルコール飲料が豚肉と共に売られていた。
"halal"とは「イスラム教で定められた方法で処理された食べ物」という意味で、
"non halal"はそうではない食べ物のこと。漢字で書くと「不合法」らしい。
 
マレーシアの女性は多くがかぶりもので髪を隠し、顔だけ出すスタイルをしている。
が、必ずしも敬虔なイスラム教徒というわけではないようだ。
彼らが跪いてお祈りをする姿は見かけなかったし、インド(北西部)のように
街のどこにいても一日に何度か大音声のコーランの詠唱が聞こえてくる
ということもなかった。
一口に"イスラム教徒"と言っても、
その母体となる住民の気質が信仰の形を大きく変えてしまうようだ。
イスラム教において「豚肉」「アルコール」と並ぶもう一つのタブー。
偶像崇拝」。これについてはどうだろうか。
私は今回、マレーシアにおける偶像崇拝の実態を目撃した。"アニメ"である。
 
土曜日の朝、ホテルの部屋でぼんやりとテレビのチャンネルをいじっていた。
マレーシアのテレビのチャンネルは多くないので、大体覚えられる。
昨晩は海外の映画をやっていたチャンネルに合わせると、なにやら聞き覚えのある音楽。
それは、日本のテレビアニメだった。
時間があったのでしばらくそのチャンネルを見ていると、
ハガレン(リメイク版)、SAO、それに名前も知らないカードバトル系の夕方アニメ
が次々と放送されていた。
音声はマレー語で吹き替えてあったが、歌やクレジットは日本語のままだった。
うーん、これって、肖像画であり、偶像であり(動くけど)、憧れ;崇拝なんじゃね?
市街地の複合商業施設では、日本アニメのコスプレ大会にも出くわした。
別の場所では、巨人兵団のコスプレと思しき一団を見かけた。
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イスラム教の開祖ムハンマド偶像崇拝を禁止した理由は、よくは知らない。
だがもし今彼が生きていたら、アニメも偶像崇拝だとして禁じていただろうと思う。
だって、子供の頃から日本のアニメを見て育った大人はどうなる?
よほどのことがない限り、反日的な思想を持つことはないだろう。
そういう観点で見れば、自国製のTVドラマを国ぐるみで売り込む韓国のやり方は
非常に効果的でうまいやり方だと思う。
日本も「クール・ジャパン」などと言って日本アニメを広めようと主張してはいるが、
韓国のように実際的な政策を伴っているわけではない。
それに正直なところ、日本アニメの大半は"日本の誇る文化"として
大々的に紹介(;外国の子供を想像してね)できるようなものではなかった。
しかし、それがここ1、2年、一般人も楽しめる作品が増えてきたようにも感じる。
折りしも日本アニメ界の巨木が倒れ、頭上に後進の伸びるスペースが開かれた。
ここは是非、関連玩具やDVDの売り上げのみを狙うのではない、
もっと長期的な狙いを見据えた良作アニメが多く作られてほしいと切に願う。
アニメは1クール放送されたのち人々から忘れ去られて終わり、ではない。
その後何年かかけて世界中の子供や大人たちに視聴され、
彼らに影響を与えるものだったのである。
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