メキシコ旅行記(2/4) ;サボテンのツナ

言うまでもなくメキシコはアメリカの南に位置する国で、
アメリカとの間に長い国境線を持っている。
メキシコに対する日本人のイメージは、
「不法労働者と移民」「麻薬の密輸」「カリブ海リゾート」
大体こんなところだろう。アメリカを通して見たメキシコのイメージである。
「メキシコは”ヒスパニック”の故郷であり、スペイン語公用語
いや、それくらいは知っているよ。
‥‥でも、その認識では甘かった。

メキシコにおいては経済・文化の面でアメリカの影響力が絶大なのだろうから、
英語が通じるはず、下手なアジア諸国よりも国民のよほど英語力は上だろう
という無意識下での予想は完全に外れていた。
そう、メキシコでは英語がまったく通じないのである。
私は普通海外を旅行する際に、その国のガイドブックと<指差し本>を持っていく。
<指差し本>は非常に優れていて、実際に指差し会話に使うだけでなく、
その国の言葉や文化、料理などを即席で学ぶ参考書としても重宝する。
しかし今回、私はメキシコ版の<指差し本>を用意していかなかった。
英語で十分だと考えていたからである。
その結果、買い物をするときに相手の言う値段が分からない。
街中でトイレに行きたくなっても場所を人に尋ねられない。
タクシーの運転手に話しかけられても何を言っているのかまるで分からない。
見知らぬ土地を旅行することはこれほど大変なのだ、と初心に帰らされた。
聞いたところでは、メキシコの公立学校では英語は教えていないのだそうだ。

しかしながら、メキシコ人は基本的に親切である。
安っぽいレストランやお店でも客への対応はかなり親切だった。
街中や駅で困った風をしていると、しばしば見知らぬ市民が声をかけてくれた。
メキシコにもチップの文化が深く根を下ろしているが、それはアメリカのように形骸化、
すなわち実質的に料金の一部となったシステムではなく、
”感謝の気持ちを表すもの”という本来の形を保っている。
メキシコではレストランでも「サービス料」という料金形態はないそうで、
タクシー運転手やホテルのスタッフにチップを渡すと少し驚いて礼を言われた。

メキシコの物価は、印象としては日本と同じ程度。決して安くはない。
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買うものやサービスによって値段がまちまちなので、確かなことは言えない。
たとえば、ちゃんとした建物とテーブルのあるレストランで食事をすると
一食で2,000円はかかる。ビールは一杯300円ほど。安っぽい店でも500円以下はない。
一方市民の足である地下鉄は、乗り換え自由でどこまで乗っても一回40円(5ペソ)。
何年か前に東京旅行に行ったという現地人のガイドは、
「日本の食事の安さと地下鉄運賃の高さに驚いた」と言っていた。ミートゥ。
標準的な博物館の入場料は大体500円前後といったところ。
タクシーは空港から市街中心部まで30分で2,000円前後だったが、これは金持ち用で、
市民用にはもっと安い(半額程度)代わりに危険を伴うタクシーがあるのだという。

首都メキシコシティの治安は、日本人が考えているほど悪くはない。
地元住民を巻き込んだメキシコの麻薬組織と治安関係者との抗争の話を
時々ネット上で見かけるが、おそらくそれはアメリカとの国境付近での話だろう。
メキシコシティの街中では、至るところに24時間営業のコンビニが営業していた。
また、市内では警察官の姿をよく見かけた。みな一様に体格がよい。
市民を威圧するような雰囲気ではなく、
住民が陽気に声をかけているところにも何度か出くわした。
至るところに人と人との会話があり、街に子供連れの姿が多いところを見ても、
「治安が悪い」「犯罪が多い」という印象は受けなかった。
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メキシコは料理が豊富でおいしいようなイメージがあるが、
実際にはそれほどでもなかった。
有名どころではタコスだが、そのメインであるトルティーヤには何の味もない。
素朴な土器に入れらているスープ類は見た目おいしそうだが、食べてみるとまあ普通。
メキシコはまた果物も豊富に採れるイメージがあるが、
こちらも東南アジアと比べると見劣りする。
イカやメロン、パイナップルなど、日本のスーパーとあまり変わらない。
メキシコで特筆すべき果物は2つ。
他国ではなかなか見ないアップルマンゴーと、ツナである。
アップルマンゴーは日本のスーパーで見かける「メキシコ産」のそれと変わらないが、
値段が安い。1kgで120円前後。その味は、最寄のスーパーで買って確かめてみてね。

ツナ。と言っても果物。
http://www.ab-road.net/south_america/mexico/mexico_city/guide/00137.html
たとえばここ↑に、その記事がある。
見た目は皮をむかれたキウイ、もしくはきゅうり(のごく短いもの)。
初めこれが何なのか分からず、街中で見つけてジュースにしてもらって飲んだ。
適度で上品に甘く、うっすらとバナナシェークの風味がする。
見た目から予想された味よりもはるかにおいしかった。
先述のガイドにその話をすると、「そりゃきゅうりだろ。メキシコにもあるよ。」
いや、きゅうりはバナナの味はしないよ(甘いきゅうりも確かにあるけど)。

市場で売られているのを見つけてガイドに示すと、「ああ、ツナね。『サボテン』。」
日本では「サボテンの実」というとドラゴンフルーツのことだが、
それとは違うタイプのサボテン、いわゆる「ウチワサボテン」に実る果物らしい。
(ちなみにドラゴンフルーツはシャコバサボテンのお化けのような植物に実る。)
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調子に乗ってたくさん買い込み、ホテルに戻ってから食べようとして、困った。
種だらけで、とても食えたものではないのだ。なんだ、だから他の国で見かけないのか。
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現地人は種ごと食べるようだが、「(硬い)種を食べると盲腸になる」
と言われてきた我々の世代にはできないことである。

ムリに食べようとしていると、表皮近くのごく薄い部分には種がないことに気づいた。
そうか、これもメロンなどと同じで、
中心部に種の集中する”ワタ”があり、その外側が食べられる果肉にあたるのか。
だったら、これを品種改良して、果肉の比率をもっと増やせばいけるんじゃないの?
(温帯の)果物は、水はけがよく、昼夜の気温差の激しい土地でおいしく育つという。
メキシコ中央部の大地はまさにその通りの土地で、
そこに育つサボテンがおいしい果物を実らせるというのも理に適っている。
誰か新しい果物を作り出したいという野心を持っているひと、
メキシコに渡ってウチワサボテンの品種改良をやってみませんか?
ちなみにウチワサボテンはその”葉”も食べられますよ。一石二鳥でしょ?