ブータン旅行記(1/4) ;高地の花

6月(;2017年)にブータンへ旅行に行った。個人旅行ではなく、旅行会社のパック・ツアー。
秘境の国ブータンはいまだ個人で自由に旅行できる国ではなく、
旅行会社のパック・ツアーでしか観光旅行ができないのだ。
今回参加したツアーは単なる観光旅行ではなく、テーマがあった。写真である。
プロの写真家さんが同行し、この時期にのみ見られるという青いポピーの花の写真を撮る
というテーマが掲げられていた。
うーん、旅行先で写真は撮るが、本格的に勉強したことはない。大丈夫だろうか‥‥。
今回の旅行のために新しいデジカメを購入したが、それほど高いものでもない。
一眼レフとかでかいレンズとか、そういう世界はさらに一桁高い
ということは知っていたが、秘境の国の高山に持っていくものではないだろう‥‥。

ブータンへは、タイの空港とインドのコルカタを経由して
ブータン国営の航空会社の便で入国した。
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他にはシンガポールを経由するルートもあるそうだが、
とにかく入国のルートはかなり限られている。
到着した空港はパロ国際空港で、3つあるというブータンの空港の中では最も大きい。
実際には日本の地方空港よりもさらに小さいが、離発着は結構あった。
日本語の堪能な現地ガイドと合流し、小型のバンで首都へと移動する。

ブータンの首都はティンプー
空港のあるパロから車で1時間半ほどかかる位置にあり、それには理由がある。
ティンプーは峡谷を縫うように広がる街で、空港を作れるような平地がない。
それでどうにか空港を作れるくらいの平地を探したところ、
険しい山を一つ越えた先まで行かなければならなかった、ということだ。
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首都とはいっても、高層ビルや大きな建物は存在しない。
これにも理由があり、法律で伝統的な建物以外建ててはいけないのだそうだ。
建物は高くても5階建てくらいで、
さすがに内部構造は鉄骨やコンクリートを用いているようだが、
外観はレンガと泥と木材でできている伝統家屋とあまり変わらない。
それらが狭い平地や斜面にひしめくように並んで建っているのだから、
都市としての規模も人口もそれほど多くはないだろう。
いや、人口が少ないとしても、行政関係の事務を行うオフィスや来訪者のためのホテル、
それに国内外の企業が入るためのオフィスがある程度は必要なのではないか
と心配をついしてしまう。

ティンプーのホテルで一泊したのち、翌朝再び空港のあるパロまで戻り、
車はそこから山へ続く坂道をさらに登り始めた。
本日の目的地は、坂道を登った先にあるチェレラ峠である。
ちょうどこの時期に、その峠の付近に珍しい青いポピー(ケシ)の花が咲くという。
その写真を撮影することが今回のツアーの主目的なのである。
峠の標高は3,800mほどで、富士山の山頂よりも高い。
一方ティンプーやパロの標高は2,300mほどで、
高低差にして1,500m分の坂道を登らなければならないことになる。

坂道を上る途中で、車が止まった。どうやらその先で道路工事をしているらしい。
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(十分とは言わないまでも)行きと帰りの2車線分の広さはある整備された道路だが、
一方の車線を通して片側通行させるだけの気遣いはないようである。
この道路工事のせいで1時間半ほど時間をロスした。
その間、外に出て近くに咲いていた花などを被写体として、
カメラの機能できれいな写真を撮る練習をしていた。
やがて、上の方から銘々の道具を持った工事作業者が下りてきた。
みな私服を着ており、顔つきは明らかにインド人だった。
全部で20人ほどだろうか、驚くことに、そのうちの半分ほどは女性だった。
ブータン人は顔つきも服装(伝統的な民族衣装)も日本人に近いので、
インド人とはすぐに見分けがつく。
聞けば、ブータン人はそれほど働くことを好まず、
しかも人件費はインド人の方が安いのでインド人が出稼ぎに来ているのだという。

峠の頂上もインド人で賑わっていた。ただしこちらは観光客。
標高は富士山よりも高いはずだが、それほど息苦しいわけではない。
誰も高山病にならずに済んでいるのは、丸一日以上ブータンで過ごしてきたからか。
いや、それだけではないように思う。
日本であれば標高2,000mを超えるくらいから木々の姿が見られなくなり、
3,000m近くなれば捻じくれたハイ松の姿すら見られなくなる。
しかしここではそれをはるかに上回る標高でありながら、
ハイ松だけでなくシャクナゲの木などの高木もまばらにではあるが生えていた。
日本の3,800mは海面からそれだけ上がったところであるのに対して
ブータンのような高地の3,800mはベースとなる平地の標高~2,000mからの上昇分であり、
気圧の低下も日本のそれより緩いのかもしれない。

道路沿いに車を止めて眺望を楽しんでいるインド人観光客をしり目に、
我々は峠から尾根をさらに登る山道を歩いた。
先にも書いたが、富士山よりも高い標高にしては全くと言っていいほど苦しさを感じない。
腕時計に内蔵された高度計を持つ写真家さんによれば、
そこは既に標高4,000mを超えているという。
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足元に生える植物にはさすがに見慣れないものが多くなり、
小さくてきれいな花をつけているものもある。
しかし写真家さんによれば、そんな花に価値はないという。
そんな中、けもの道から少し外れた茂みに入ると、
むしろ大きくて目立つくらいの青い花がすっくと立って咲いている。
これが目的の青いポピーだとのこと。
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花が一本だけすっくと立っており、確かに写真映えする。
しかし周りをよく見ると、あちこちに結構な数が咲いていた。
見た目が立派できれいすぎることもあり、
なんだか園芸種のようで逆にありがたみを感じなくなってしまった。
しかし、これだけきれいに咲いているのは今日の前後三日程度だろうとのことで、
綿密なリサーチと天候の幸運があってこそのこの光景である。

ところで、この地区にはもう一種、いまだ種として登録もされていない
さらに珍しい青いポピーが咲くという。
岩の隙間にひっそりと成長し、トゲだらけの葉と茎を持ち、
今回見たものよりも可憐な青い花を咲かせる、とのこと。
探すとトゲだらけの葉と茎を持つ株はいくつか見つかったが、
そのうちの何株かがやはりトゲだらけの堅いつぼみをつけているだけだった。
もう1週間遅くに来ていれば、こちらの種の花だけが見られたのだろう。