スリランカ旅行記(1/4) ;夕陽のインド洋

2018年の年末から翌年始にかけて、スリランカを旅行した。
日本人にとってスリランカはそれほどメジャーな観光地だという認識は薄いのだが、
世界的にはメジャーな南国リゾートの観光地として認知されているようである。
前世紀末頃には内戦やテロが発生していたが、最近になってそれらの困難は克服された。
もともとイギリスが植民地としていろいろ開発していたこともあり、
近年では都市部の経済発展と伝統的な観光地のリゾート開発が急速に進められている。
赤道に近い緯度にあって常夏の気候で、海やプールで泳ぐもよし、
ビーチや海中の美しい光景を楽しむもよし、
南国の豊富なシーフードや果物を食するもよしの観光大国なのである。
また古代に作られた有名な遺跡や仏教寺院などもあり、
そちらを訪れる外国人観光客も多い。
国民が南国気質なこともあって、何となくタイと似ているところがある。

島の大きさは北海道よりやや小さい程度、人口は2,000万人強だそうである。
都市部は多くの人間で賑わっている印象だが、人口が過密というわけではなく、
貧困地区が広がっているわけでもない。
少し地方へ行けば農地や湿地、ジャングルが広がっており、
雰囲気は東南アジアのそれに近い。
モンスーンなどの影響もあって雨季と乾季があるようで、
年末年始の旅行期間中は一度の雨にも遭わなかった。
ただし気候や大地が乾燥しているわけではなく、
色の濃い常緑性の植物や水量の豊かな河川をいたるところで見かける。
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特に島の南西よりの内陸は海抜二千メートルを超えるところもある高地となっており、
壮大な滝や峡谷、急流が大地を削り続けている。
そんな自然環境を生かしたラフティングのアクティビティがあったので、体験してみた。

自動車の通る道路から高さにして10mほど急な斜面を降りたところに川があった。
そこに頑丈なゴムボートを浮かべ、現地人の船頭(若くてワイルドな
感じの兄ちゃん)とともにそのボートに乗って川を下る。
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雨の少ない季節のはずで、少なくともそれまでの数日間雨が降った様子はなかったが、
水量は豊富で流れは激しく、深さも結構あった。
水は汚いというわけでもきれいというわけでもなく、
泳ぐ気になれば水に入れるがそうでなければ手をつけてみたいとも思わない程度である。
透明度は高くなく、水中に魚やその他の水生生物の姿は見かけなかったが、
船頭さん曰く、「ワニがいるかも。」
ワニは見なかったが、水オオトカゲやきれいなグリーン色のイグアナを見た。
水オオトカゲは、鈍重そうに見えて流れの緩やかな水面を優雅に泳いで通り過ぎていった。

やがてボートが水しぶきの飛び散る激流に差し掛かると、ボートは上下に激しく揉まれ、
転覆こそしなかったものの乗っている人間はみなずぶ濡れになってしまった。
激流ゾーンはいくつもの巨石が積み重なって形成された地形を流れているが、
巨石の角が取れて丸くなっているので、
ボートの底がこすったり多少ぶつかったりしても大丈夫である。
激流ゾーンを超えると流れは再び深く緩やかになり、川幅も広がった。
「泳げるのなら泳いでもいいよ」と言われ、南国の日差しを浴びながらしばらく泳いだ。
ライフジャケットを着用しており、足が川底につくことはない。
水が濁っていてどれくらい深いのか分からなかったが、時々足が岩にぶつかった。
他のボートには地元の家族が(客として)乗っていたらしく、
高校生くらいの少年が「初めて泳いだ」と言ってはしゃいでいた。
ふと上を見上げると、水面の数メートル上に簡素な吊り橋が揺れていた。
人一人通るのがやっとの幅である。
現地人が橋の上からのぞき見ていたので、背面で泳ぎながら手を振ってやった。

ボートに乗っていた時間は意外と長く、1時間くらい。
その間に4,5か所の激流ゾーンを通過した。
最後は樹木の中にちょっと開けた川岸にボートを寄せ、
船頭らがそこから自動車道路までボートを手で運んで行った。
そこにはちょっとしたレストランがあり、
我々客は着替えたのちそこで川の流れを眺めながらゆったりと昼食をとった。

しかし、スリランカと言えばインド洋に面した海岸のイメージが強いかもしれない。
島の西岸に位置する最大都市コロンボから南岸に位置する観光都市ゴールまでの区間
延々と続くビーチなのである。
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湾や湿地帯になっているところもあるが、
沿岸を縫って伸びる幹線道路を自動車で走ってみれば、
日本の沿岸地域との違いは明らかである。
そんな暇はないという方には、地図でスリランカの海岸線を見ていただきたい。
島全体が延々と滑らかな曲線で囲まれている。
これは海岸線がごつごつとした岩場ではなく、
千葉・九十九里浜のような砂浜であることを示している。
いや、ネットの航空写真モードでスリランカの沿岸部を見れば一目瞭然のことか。
ともかく、スリランカのビーチリゾートとしては先に挙げた島の南東側が有名で、
したがってそこから見えるインド洋に沈む夕陽が
スリランカのビーチリゾートを象徴する光景なのである。

南東側のビーチリゾートを代表するのがヒッカドゥア地区。
ここにはホテルやおしゃれなお店が立ち並んでおり、
多くの欧米人の観光客でにぎわっている。海水浴を楽しむ人も多いが、
海にはもっと沖まで出るためのボートがたくさん浮かんでいた。
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そのうちの一艘をチャーターし、沖合でのシュノーケリングにチャレンジした。
ボートはいわゆるモーターボートで、
チャーターすると随分と若い運転手が一人ついてきた。
ボートの底はガラス張りになっていて、
海に入らなくてもボートの上から海中の様子を見ることもできる。
いわゆるグラスボートというやつだ。

海岸の近くの海底は白い砂で覆われているが、
少し沖に出ると改定の様子がごつごつとした岩がちに変化し、
それとともに魚の姿が見られるようになった。
しかし、期待していたほどサンゴの姿が見られない。
聞けば、以前は沖合に見事なサンゴ礁があったのだが、
何年も前にこの辺り一帯を巨大津波が襲い、
それによってサンゴ礁が破壊され壊滅してしまったのだという。
今はそれが少しずつ回復してきているところらしい。
これは言うまでもなく2004年の年末に東南アジア一帯を襲った
スマトラ沖地震により発生した津波のことである。
調べたところ、このときの津波によるスリランカの人的被害は
死者・行方不明者合わせておよそ4万人、
地震の直撃したインドネシアに次いで2番目の大きさであった。

目の前の海はそのままインド洋であり、天気が良くても海はそれほど穏やかでない。
比較的荒い波の来るスリランカのビーチでは、
海水浴よりもサーフィンを楽しむ人の方が多いようだ。
沖へ出れば、運が良ければダイナミックに泳ぐクジラやイルカを見ることができ、
運が悪ければ凶暴な巨大ザメを見ることができる。
また、運の良しあしに関わらず巨大な外洋貨物船を見ることができる。
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この海域は、インド洋と太平洋、さらには東洋と西洋を結ぶ海路の要衝なのだ。

海から上がり、ビーチ沿いの高台に建てられた高級リゾートホテルに入った。
中のレストランで夕陽を見ながらの夕食をとるためである。
宿泊客は多いのだが、レストランの中はガラガラで、ほかに客はいない。
まだ夕食には早い時間だからだろうか。
海に面した崖の上の特等席を占有し、夕陽が沈むのを待つ。
時間をかけて空から降りてくる太陽は次第にその色を変え、
気が付くと周りの光景も赤みがかった色合いに変わってくる。
眼前の海には、はるかな水平線まで赤く輝く光の道が伸びていた。
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そう、これだ。
これがインド洋の、スリランカの代表的な光景なのだ。

結局ほかの客はほとんど来ず、
海からの潮騒のみが聞こえる静かな環境でインド洋に沈む夕陽を満喫できた。
今回の旅行でもスリランカの各地を巡り、様々な体験をしてきたが、
これがその“しめ”としてあるべき体験、そしてその写真の一枚が得られた。
旅行に伴う苦労と出費が報われたと思える瞬間である。