スペイン旅行記(4/4) ;スペインの夜

今回の旅行では、羽田発のルフトハンザ航空を利用した。
日本からスペインへの直行便はないそうで、フランクフルトでトランジットを行う。
ところが、フランクフルトの空港に降りて乗り換え便の表示を探すと
そこには「cancel」の文字が。
これは不可避で深刻度のかなり高いトラブルである。苦労して何とか翌日の便を
確保し、その夜は航空会社の用意したホテルに宿泊することになった。
フランクフルトはドイツでは南部に当たるとはいえその緯度は高く、
夜遅く、21時頃まで日が沈まなかった。
 
フランクフルトからスペイン・マドリッドの旅程は表示時刻で2時間半。
しかしこれで「短い」と思ってはいけない。なぜならば時差が含まれるはずだから。
…ところが、本当に2時間半でマドリッドに着いてしまった。
おかしいな、ドイツとスペインではかなり経度が違うはずなのに。
2時間くらいは時差があるはず。そしてヨーロッパではサマータイムがあるので、
合わせて3時間くらい太陽基準の時間からずれていることになる。
事実マドリッドで日が沈むのは夜21時前後。
緯度は日本の東北地方と同じくらいだが、
その日没時刻は(はるかに緯度の高い)先のフランクフルトとそう変わらない。
そして、スペイン人達もこの”時差”を認識している。
スペインでは昼休みが14時からで、夕食は22時からが普通らしい。
 ;調べてみると、ドイツとマドリッドの間の経度差は1時間分の15度程度だった。
  しかし現地で影が最も短くなる時刻を調べたところ15時前後だった。
 
要するに、スペインの”時間”はサマータイムをさらに過激にしたものなのだ。
サマータイムの本来の目的は、日の沈む前に勤務を終え、
その後のプライベートな時間を活動的に過ごすこと。
夏のスペインでは、まだ日差しの暑い時間帯に勤務時間が終わってしまう。
その後は友人と遊びに行き、
暗くなってからはレストランやBarで飲食を楽しむのだろう。
スペインの外食はかなり高くつくのだが、そんなわけで大いに繁盛している。
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そして我々外国人観光客は習慣から時刻通りに昼食・夕食をとるので
地元民と食事の時間がずれ、飲食店としては効率的に客をさばけることになる。
飲食店にとって、”スペイン時間”は大変有り難いものであるに違いない。
スペインは今も昔も大した産業がなく、現在は観光立国でやっているようなもの。
それゆえ、飲食店等のサービス業の稼ぎが社会にとっても重要なのである。
 
スペインでは、働き盛りの男性が飲食店の給仕をやっている。学生バイトではない。
ただ、彼らは私服で店内におり、時々近所の知り合いと話をしたりしているので
非常にそれと分かりづらい。
路上のテーブルに陣取り、注文を決めて店内に入ろうとすると
近くに座っていた私服のおっさんがいきなり「オラ」と声を掛けてきて
実はそれがその店の給仕だったりする。
けれども、スペインの店の店員は総じて感じは悪くない。
みやげ物屋にしても大抵ウィンドウショッピングは自由にさせてくれるし、
買おうという素振りを見せても強引に勧誘したりはしない。
両替店などにはえらいぼったくりの所もあるが、「なら他所へ行く」と言っても
「選ぶのはあなたの自由だ」と言わんばかりに笑顔で応対してくれる。
飲食店の給仕にしても、実はかなり気を配っている。
飲み終わったグラスがあると適度なタイミングでやってきて下げていくし、
いかなる時も笑顔で応対してくれる。
そして支払いの時。5ユーロ以上の大きなお釣りが生じるとき、
お釣りはお札ではなく硬貨で返ってくる。
これは「お釣りの中からチップを出しやすいように」という彼らの配慮なのだ。
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グラナダからの帰り、列車がマドリッド・アトーチャ駅に着いたのは
夜の22時過ぎだった。
スペインの夜は遅いから大丈夫と油断していたが、実は全然大丈夫ではなかった。
アトーチャ駅には、改札の中にも外にもいくつかトイレがある。
それをあてにして列車の中では我慢していたのだが、
いざアトーチャ駅に着いてみるとトイレは中も外も全て閉まっていた。
どうやら駅のトイレの営業時間は駅のそれよりも大分短いらしい。
仕方がないので早くホテルに戻ろうと思い、電車の切符を買って駅の中に入った。
6番ホームに目的の電車が来ることを確認し、ホームで待つもなかなか来ない。
ようやく電車はやってきたが、待っている人はそれには見向きもしない。
しかし電車の中にはトイレがあるので、私はとりあえず乗り込んで用を足した。
落ち着いて周りを見ると、乗客は私以外にほとんど誰もいない。
電車は長く走り続けており、停車する様子もない。
次の停車駅の表示等はないが、ホテルの方向でないことだけは確かだ。
 
電車は地下から地上に出、明かりの少ない郊外風の駅でようやく停止した。
それが旅行の最終日だったのでユーロの残金もなく、
数時間かけて歩いてホテルまで帰らなければならない可能性をも覚悟した。
駅の改札を出ると、幸運にもまだ地元の客がいた。
話を聞いて、そこがホテルと反対方向に一駅行った駅だということ、
まもなく逆方向(つまりホテルの方向)の電車が来ることが分かった。
自分が間違えて隣のホームに来た電車に乗ってしまったのか?
いや、帰り(つまりホテルの方向)の電車はアトーチャ駅の5番ホームに停車した。
翌日にも再度確認したが、やはりホテルの方向は6番ホームだった。
考えられる可能性は、「夜遅い時間帯には電車の方向が逆転する」ということ。
それはつまり、スペインの夜には理屈では説明できない理不尽なことが起こり得る
ということでもある。
もしあの時本当に逆方向の駅からホテルまで歩いて帰らなければならなかったとしたら、
さらなる理不尽なアクシデントによって無事には帰れなかったかもしれない。
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スペインには私以外にも毎年多くの日本人が観光に出かけている。
その一人ひとりがスペインの夜に関してそれぞれの思い出を持っていることだろう。
だがしかし、それら全てをもってしても語られることのない”スペインの夜”が
今も毎晩スペインのどこかで繰り広げられているのではないか
旅行記を書きながら想う。