スペイン旅行記Ⅱ(2/4) ;パエリヤ食べ歩き・上

 スペインを代表する料理は何だろう。旅行者がスペインでよく口にする料理となると、タパスだろうか。しかしタパスとは一ロサイズの小皿料理のことであり、特定の食材や調理法による料理名ではない。もっぱらバルでアルコール飲料のつまみとして出されるものである。オリーブの実やピクルスなどの酢漬け、あるいは魚肉などシーフードのから揚げが定番である。その他の料理としては、パエリヤ、アヒージョ、イベリコ・ハムあたりが有名である。
 
 こうしてみるとワインに合う大人の料理が多い印象だが、スイーツの分野にもチュロスというなかなかの名物がある。正直これまでチュロスに関して大した印象も知識もなかったが、今回のスベイン旅行中に食べる機会があり、おいしいお菓子として記憶されることになった。グラナダで宿泊した小さなビジネスホテルの朝食メニューの中にチュロスがあり、試しにそれを注文してみた。想像していた細長いにゅるっとしたものではなく、太くてでこぼこしたチュロスが出てきた。ボリューミーなだけでなく、しっかりと油で揚げてあるためカロリーもがっちりと確保されている。

f:id:windmillion:20191111231354j:plain

チュロスとチョコレート・ドリンクの朝食
 しかし印象的だったのは、それとともに供されてくるチョコレート・ドリンクである。これにチュロスを浸して食べるのだが、これは実際のところ文字通リチョコレート・ドリンクであり、コーヒーカップに入っていて直接飲むこともできる。チョコレートを融かしただけのものとも違うし、ココアとも違う。それらのいいところだけを足し合わせたようなものだった。これはチョコレート・フォンデュというやつだろうか。今まで口にしたことのないスイーツである。翌朝も迷わずチュロスをオーダーし、チョコレート・ドリンクとともに味わった。だが、見れば分かることなのだが、食すればさらにはっきりと分かる。この組み合わせは明らかにカロリーが高いばかりでなく、くどい。三日目の朝は普通のサンドウィッチとコーヒーを注文した。
 
 上に挙げた料理のうち、今回の旅行でこだわったのはパエリヤである。スペインに到着た日の晩にいきなりおいしいアヒージョとイベリコ・ハムに出会えてしまったため、その後の旅程で探索すべき料理はパエリヤだけとなっていた。パエリヤは一言でいうなればフライパンで作るシーフードの炊き込みご飯であり、日本人との親和性は高い。おそらくスペインを旅行する日本人は一度以上パエリヤを注文し味わうことだろう。私は前回のスペイン旅行でもマドリッド市内のレストランでパエリヤを食べた。しかし本格的なパエリヤはシーフードを大量に使うため値段が少々高く、また一人で食べるには量が少々多い。そのため前回はそれ以降パエリヤを注文することはなかった。しかし今回の旅行では連れがおり、二人で食べると量的にちょうどよい。そこで今回の旅行では、行った先々のレストランでパエリヤを食べることにした。
 

f:id:windmillion:20191111231510j:plain

マドリッド旧市街のレストラン激戦地区

 はじめに食べたのは、首都マドリッドの旧市街地区にあるレストラン。外国人観光客だけでなく地元住民も多くがやってきて賑わう場所で、多くのレストランが軒を連ねる外食の激戦地区でもある。ここでは、一見グロテスクに見えつつなぜか人の心を魅了するイカ墨パエリヤを注文した。そういえば前回の旅行でただ一度食べたパエリヤもイカ墨パエリヤだった。黒いフライパン風の鉄

f:id:windmillion:20191111231604j:plain

アロス・ネグロ(イカ墨パエリヤ)

皿にイカ墨で黒く染められたご飯が入っており、さらにこれまた黒いムール貝の貝殻が並んでいる。イカ墨の素であるイカの肉だけが白く浮き上がって見えるのは皮肉なのだろうか。その見た目はともかく、やはリシーフードとご飯は日本人にとってありがたい。生ハムの脂っこさやオリーブオイルの油っぽさにやや食傷気味の旅行者は、シーフードの繊細な旨みとそれを包み込むやわらかいご飯によって日本人の味覚を取り戻すことができる。おかずとして注文したチョリソ(唐辛子風味のソーセージ)もおいしかったので、このレストランは当たりの店だったのだろう。
 
 ところが、ガイドブックの中に気になる記述があるのを見つけてしまった。「いわゆるイカ墨パエリヤは『アロス・ネグロ』と呼ばれるもので、厳密にはパエリヤとは異なる料理です。」そうなのか。確かに、見た目からしてこれと普通のパエリヤが同じ味・風味だとは思えない。どちらが美味しいということではなく、スペインでこれこそが正統と考えられているパエリヤを食べなければならない。アナゴの握りだけを食べて寿司という料理を知った気になるべきではないのと同じことだ。満足のいくパエリヤを求める旅はまだ始まったばかりである。